アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
大誤算っ!
-
2時間くらい経っただろうか。
軽トラはある住宅の前で停車した。
親父に続き、俺も車を降りる。
すんなりついてきたことに驚いたのか、親父は目を見開く。
無理矢理連れてきたくせに。と、ぼけっと突っ立ってる親父の背中を蹴り飛ばし、目の前の家を見上げる。
何の変哲もない、一般的な2階建て。
ただ、どことなく物悲しさを感じる。
哀愁を助長させる、周りを飾る枯れた花々。
【桐生】と書かれた表札は、所々削れて読みにくい。
ふと玄関先を見ると、50手前くらいの男性が立っていた。
彼は俺達に気づくと、手を挙げて、いらっしゃい と合図する。
親父が、さっき言った上司だ と耳打ちしてくるが、とっくに分かってる。
俺はこれから、例の引きこもり息子と対面させられるのだ。
大人達の決めた、段取り通りに。
桐生総一郎の後に続き、俺達は2階へ案内された。
彼は、【KANADE】と書かれたプレートの掛かったドアの前で立ち止まった。
数回ノック音を鳴らしたあと、部屋の中から掠れたか細い声がした。
ドアは、開かない。
『何・・・?父さん』
「これから父さんが帰ってくるまで、奏の世話をしてくれるお兄さんが来てくれた。
挨拶しなさい。」
ちょっと待て、俺はまだ同居なんて承諾してないぞ。
喉の先まで出かかった言葉が、親父が口を塞いだことで消える。
頼むよ とばかりに親父は子犬の目を向けてくる。
総一郎も、お手数かけます とお義理のように申し訳ない顔をする。
冤罪で捕まったにも関わらず、優しく諭されながら自白に追い込まれるようだった。
横暴だと言って逃げればよかった。
でも出来なかった。
俺が叫ぶ前に、ドアが微かに開いたから。
『よろしくお願いします・・・』
声の主の姿を見て、うわぁ と思わず漏れた。
もう、”らしい”としか言いようがない、THE 引きこもり だった。
俺を見る怯えた目。
でもそこには、奥底では見下し、世の中に絶望した色が見え隠れしている。
清潔とは言い切れないが、ある程度手入れされた髪。
言葉を言い終わると、一文字に固く結ばれる紫がかった唇。
予想を遥かに超えていた。
引きこもりと言っても、ただ学校に行ってないだけの普通の男の子だと思ってた。
ただ家でダラダラと過ごし、両親の”学校行け”サインを はいはい と受け流す自堕落人間かと思っていた。
俺の偏見だが、これじゃあ 引きこもり と言うより 立てこもり だ などと考えた。
俺は無意識にドアの前まで歩み寄っていた。
口が勝手に開く。
「大人の勝手な事情に巻き込まれるの、どうかと思うんだけど、
アンタはどう思う?」
背後で親父が口をあわわとさせる気配がする。
総一郎は露骨に嫌な顔をする。
彼の様子を見て、親父はさらに慌てる。
キレる寸前のジ○◯◯ンと機嫌を取るス◯オみたいなやり取りが行われる中、俺は再度問うた。
「バカバカしいと思わない?」
えっと・・・と数秒口ごもってから、分かりませんっ と勢い良くドアが閉まる。
俺は ふぅんと興味無さげに呟き、バトル開始数秒前の2人の間をするっと抜ける。
大人達が一斉に俺を振り向く。
「コイツとだったら考えてやらなくもない。」
ハト豆な顔の2人を置いて、俺は階段を下りていく。
1段1段ゆっくりと。
思ってることを口に出せない奴と、俺が会話できるとは思えない。
ビクビクしてる奴に、俺の言葉を受け止め続けられるわけがない。
俺達は合わな過ぎだ。
だからこそ、良い。
お互い干渉せずにいれば何も起こらないから。
お互い無干渉でいれば、一人暮らしのようなものだと。
その時は、思ってた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 124