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大誤算っ!
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ゴールデンウィーク初日。
親父がキャディーバッグを引きずりながら、玄関で大泣きするのを見送って、
俺は学校へ急いだ。
なんで休みの日に学校へ行かなきゃいけないのか、と文句を呟きつつも、
自分で選んだのだから仕方ないか、と諦める。
俺の所属する文芸部は、毎月20日に部誌を出版していて、5日が締め切りとなっている。
つまり、今月は休みの真っ只中が締め切り日なのだ。
要領良く、作品がスラスラ思い付き、早めに書き終わった人は、GWを満喫出来るのだが、
休み初日になっても原稿があがらない部員は、部室に軟禁されるのだ。
俺のように。
でも、今日は上手く口実を作って早めに帰るつもりだ。
なぜなら、今日から桐生奏と同居することになっているから。
事前に家の鍵を渡しておいたので、午前中にも彼は俺の家に来ているだろう。
他人を我が家に1人置いておくのも心配だし、桐生奏も初めて入る家ではくつろげないだろうし、それに・・・アレだし。
学校に着き、部室の扉を開けると、ゾンビと化した部員が床に転がっていた。
ネタがぁ、締め切りがぁ、と呪いの言葉が飛んでは消えていく。
俺は自分が定位置としているデスクに向かい、カバンからUSBを取り出す。
そこからは、もう現実世界とは離脱した。
【完】の文字を打ち、再び現実へと帰還する。
周りを見ると、もうほとんど人はいなかった。
ヤバいと思って窓の外を見たら、夕日が赤々としていた。
ガバッと椅子から立ち上がると、眩暈でよろけてしまう。
転ぶ寸前で部長が俺を抱えてくれた。
大丈夫か、しっかりしろよ、という言葉に曖昧に頷き、彼の顔にUSBを叩き付け、
猛スピードで部室をあとにした。
俺は心配だった。
家がじゃない。桐生奏が。
5月とはいえ、あの家に長時間居たら倒れる。
なんたって、我が家はゴミ屋敷一歩手前なのだから。
掃除が出来ないわけじゃない。
ゴミだって分別して規定通りの曜日に出している。
でも、なぜだか部屋が、家が汚くなっていくのだ。
だから、暇な日がある度に大掃除をしている。
しかし、ここ最近、海外出張や同居問題でバタバタしていて掃除できていないのだ。
そんな家に、ひ弱そうな奴が置き去りにされているのだ。
興味無い、関係無いとは言うが、さすがに同居初日から体調不良じゃ気分が悪い。
なにより、わだかまりのない無干渉状態が望ましいし。
廊下を、歩道を、駅構内を、街中を大爆走する姿は、さぞけったいだっただろう。
危ないぞと叱る者も、物珍しげに二度見する者もいた。
だが俺は走り続けた。
家の敷地内に入っても俺は速度を落とさなかった。
だから気づかなかった。
【上村】の表札がヒマワリで飾り付けられていることに。
バンッ!と力の限りリビングのドアを開く。
はぁはぁと荒い呼吸が、一瞬で止まる。
「えっ・・・」
思わず声が漏れる。
それもそのはず。
無いのだ。
今朝までうず高く積み重なっていた洗濯物、テレビ台の周りに散乱していた古新聞の束、テーブルの上の灰皿に入っていた煙草の吸殻・・・
それらすべてが、無いのだ。
無いだけでなく、整理されているのだ。
洗濯物はきれいに畳まれ、古紙はまとめて縛ってあり、灰皿なんてきれいに磨かれていた。
至る所に積もっていた埃も、すっきりと無くなっている。
”不潔”から一転、”清潔”が、今まで感じたことないくらいの”清潔”が、この空間を流れていた。
唖然とリビングのど真ん中で立ち尽くす俺の背後に、すっと人影が立つ。
『律さん、晩御飯の用意、できてますよ?』
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