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大誤算っ!
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『りっちゃんりっちゃんっ!
ご飯の用意、出来たよっ!』
背後からの奏の声で、俺は現実に引き戻される。
どうやら意識だけ4か月前にタイムスリップしていたようだ。
後ろに立つエプロン姿の奏を、まじまじと見つめる。
見つめられた本人は、困惑の表情を浮かべつつ、頬が若干赤かった。
「オマエ、変わり過ぎ。」
えっ、と目を真ん丸くする奏の横をありがとな、と言って通り過ぎる。
ダイニングテーブルには、湯気の立つ料理が数々並んでいる。
定位置に座って、いただきます、と言って箸を持つ。
いつの間にか俺の斜め前の席に座っていた奏が、ニコニコと俺の顔を眺めている。
「食べにくいんだけど。」
『我慢だよ、りt・・・っ!』
奏が言い終わる前に、俺は空いた手でデコピンをする。
痛いと叫ぶ奏を無視し、サバの味噌煮に手をつける。
うん、相変わらず美味い。
奏は、同居初日から毎日、自分と俺の2人分の御飯を用意してくれている。
しかも、かなり美味い。
男所帯で、お世辞にも旨いと言えないものを食べてきた俺にとって、これはかなり効いた。
だが。
俺は黙々と食べながら、斜め前から送られる熱い視線を無視し続ける。
なんか、怖い。
日に日に強さを増す視線、言動が、怖い。
同居初日、キレイになった部屋で唖然とする俺に、コイツは微笑みを浮かべながら言った。
律さんが気持ち良く過ごせるようにしておきました、と。
動揺で頭の回っていなかった俺は、ありがとう、助かった、みたいなことを言ったのだろう。
その時から、何かが狂っていった。
無関心無干渉の同居生活を望んでいたのに、その翌朝、奏は朝ごはんを作って待っていた。
何か状況が読めず、動揺を隠したかった俺は1日中外でぶらぶらした。
そして帰宅したら、リビングだけでなく家中ピカピカに掃除されていた。
そしてまた、晩御飯と奏が待っていた。
ここで、他人が勝手にうろちょろするな、と怒ればよかった。
でも、もう俺は、奏のペースに乗せられてしまっていた。
台所を占領し、ゴミ出しも1人でこなし、洗濯機も掃除機も我が物とし、風呂場を第二の城とした。
そして、律さん、朝ですよ。とモーニングコールが始まり、
気づいた時には敬語が取れて、しまいには”律さん”が”りっちゃん”に変わっていた。
『りっちゃん、美味しい?』
「あ、ああ・・・」
お風呂もホカホカだからねぇ、とうっとりした声を出す奏に、危機感を感じ、
そそくさと風呂場へ逃げこむ。
逃げるなんて性に合わないのだが、体が勝手に動く。
服を脱ぎ、扉を開けると、もわっと蒸気が流れ出てきた。
湯船からは湯気が立ちこめ、シャンプーなどが棚にきれいに並んでいる。
壁にこびり付くカビも、ほとんど無い。
ホカホカの湯船に浸かり、一息ついてから頭を洗う。
ザーっと泡を流し終えた時、背中の方から冷気が当たっているのに気付き、鏡に目を向ける。
薄く開いた扉から、パッチリ開かれた片目が覗いていた。
「何してんだ?」
『え、いや、本日も凛々しいお背中ですね///』
答えになってない答えが、赤面少年から返ってくる。
「このド変態がぁぁぁぁぁっ!」
俺の怒声と奏の顔面に桶が当たる音が響く。
ジャストミート。
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