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大誤算っ!
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数分経って、決心がついたのか、背中にすっ、と感触がした。
りっちゃん、とか細い声がする。
俺は返事の代わりに、寝返りをうつ。
切なげな瞳が、そこにはあった。
「なに泣きそうな顔してんの?」
『分かんない・・・。』
分からないって・・・
オマエは女かっ!
りっちゃん、と何度も呟く奏から天井へと視線を移す。
俺の左手が、奏の両手に包まれる。
何?と驚きを隠しながら訊くが、奏から答えは返ってこない。
握られた左手に力が込められる。
振り払うことは、許されない。
俺は観念して、左手を握られたまま寝ることにした。
目を閉じ、再び眠りへと進んでいく。
りっちゃん、とまた呼ばれる。
コイツは何度も何度も・・・。
起きてはいたが、返事をせず寝たふりをする。
ミシッと奏が起き上がる音がした。
『りっちゃん、
りっちゃんは覚えてる?りっちゃんがボクの荷造りの手伝いに来てくれた日のこと。』
覚えてる。
さっきもタイムスリップしてたし。
俺は心の中で返事する。
さらに奏は続ける。
『あの時ボクが、荷物の中に制服を入れるか悩んでたじゃん?』
すっごくすっごく悩んでたの、と強く呟く声は微かに震えていた。
『りっちゃん、言ってくれたよね?
"無理して持っていくことはない。
オマエの好きな物だけ詰めればいい"って。
ボク、すっごく嬉しかったの。』
奏が涙目で微笑んだような気がした。
なんて感動的だろう。
しかし、だ。
俺は、いつまでも制服片手にうんうん唸るのが鬱陶しかっただけなのだ。
奏を思う気持ちは、微塵もこもってない。
罪悪感が、胸を侵食する。
『それでね、
あぁ、この人とだったら一緒に暮らせる、ううん、一緒に暮らしたい、って思ったの。』
あぁ、そうか、俺はあの時に選択を間違ったのか。
誤算場所が、判明した。
『一緒に居れば居るほど、
この人と別れたくない、離れたくないって思ったの。』
・・・ん?
今、妙な方向に進んでないか??
ぽたっと落ちてくる、雫。
ビクッとして咄嗟に目を開けてしまう。
『ボクの、運命の人・・・』
残り数センチまで、迫って来ていた奏の唇を空いていた右手で押し返す。
「何してくれちゃってんの?」
後ずさりして距離を置く俺を、奏はふふふ、とニヤニヤしながら見つめている。
『りっちゃんの、負けっ♪』
ケタケタと笑いながら、嘘はダメ、と俺の鼻先を摘まむ。
コイツ、寝たふり気づいてやがったな・・・
ずるりとベッドから落ちかける俺を、奏がすっ、と引き寄せる。
『でもね、初めてドアの前で会った時から、ボクの世界はりっちゃんを中心に回り始めたんだぁ』
耳元で囁かれる、真実。
あぁ、そうか。
俺の誤算は、コイツと出会ってしまったことなのか。
大誤算。
その鈍器のような言葉で殴られ、
俺は夢の中に墜ちていった。
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