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バカか、オマエは。
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片付けが一段落し、心にも余裕が出てきた。
ふと奏を見ると、こちらもようやく現実に戻ってきたのか、俺と視線が合う。
りっちゃん、と掠れた声が、静かなリビングに現れて、消える。
俺は、大丈夫か?、と、怒るでも、呆れるでもなく、ただ心配するように尋ねた。
奏が、ぎこちなく笑い、頷く。
俺は、そうか、とほっと胸を撫で下ろした。
すると、奏の重い口が、開かれた。
『りっちゃん、ボクね、変わりたかったんだぁ・・・』
俺はその言葉に、ふぅん、と呟き、奏の隣に腰を下ろした。
奏が、俺から体を、離した。
『それでね、文化祭に行くことで、以前の、まだ人と積極的に接してた時の自分を取り戻そうとしたの。』
俺は頷いて聞くだけで、何も言わなかった。
急に文化祭に行くなんて言った奏の本心を、ちゃんと最後まで聞きたかった。
時計の針の音が、メトロノームのように、響く。
『でもね、実際に外に出るとね、怖くて何も出来ないの。
大勢の中、1人の人間として存在できるか、不安になったの。
だから、フードで目を隠したり、りっちゃんから離れられなかったの。』
奏の震えの原因が、ようやく分かったような気がした。
100%じゃないが。
いや、もしかしたら、そんな気がするだけで、分かった気でいるだけなのかもしれない。
俺は、奏じゃないのだから。
奏の苦しみ、焦り、不安、それは俺が想像するより、ずっと根深いものなのだから。
『バイキングで男に襲われた時も、お化け屋敷で泣きそうになった時も、本当は、自分でなんとかしなきゃって、思ってたの。』
いや、あれはどう考えても助けが必要だっただろ。
特にバイキング。
ありゃ、俺でも叫ぶぞ、助けてって。
そう言いたくなるのを、抑える。
今は口を挟むべきじゃない。
奏は、"勿論嬉しかったよ?"と手のひらをブンブン振って、慌てる。
別に、助けなきゃよかった、なんて思わないのに。
『でもね、りっちゃんを頼りにし過ぎると、いつまで経っても変われないと思うの。』
まぁ、確かにそうだな。
俺も最近、過保護過ぎると感じてた。
でもコイツ、見てて危なっかしいんだよな。
考えが顔に出ていたのが、"やっぱり心配掛けちゃってたんだね"と、奏が苦笑いをする。
"そんなことはない"
"心配なのは当然だ"
その2つが頭に浮かんだ。
しかし、口にはしない。
そんな同情めいた言葉を、奏は望んではいない。
そう、思ったから。
黙ったままの俺を、奏が慈しむような目で、見つめる。
『やっぱり、りっちゃんは優しいよね・・・。
その優しさに、ボクは甘えてばかりだ・・・。
やっぱ、ボクってダメだねっ!』
あはは、と自虐的に笑い飛ばす奏。
その姿はまるで、自分の存在意義を自分で壊してるようだった。
俺は静かに目を瞑る。
何も言わず口を閉ざす俺の名を、奏が心配そうに呟く。
奏は俺に、肯定も否定も求めてない。
奏は、"自分はダメだ"と結論付けているわけではない。
しかし、"自分は出来る奴だ"とも思ってはいない。
奏は"自分"が分からなくなってるんだ。
俺は目を開け、奏の顔を真っ直ぐ見据え、口を開いた。
「バカか、オマエは。」
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