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誰に何て言われようと。
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日に日に寒さを増してきた、
そんな11月上旬の日曜日の朝。
"今年も寒い夜が続きそうです"
テレビの中で天気予報士とキャスターが、毎年同じことを言っている。
暑い冬など気持ち悪いだろ、と、
リビングでボーッとコーヒーを飲んでいた俺は、奏の一言で、吹き出してしまった。
げほげほと咳き込む俺に駆け寄る奏を、俺は手で制した。
数分、気管に入ったコーヒーの苦しみと格闘した。
やっと呼吸が整ったので、俺は恐る恐る口を開いた。
「奏、もう一度言ってみろ?」
『え?
だから、ボク、りっちゃんの学校、受験することにしたから。』
"どういう風の吹きまわしだよ"
そんな言葉を飲み込み、俺は、そうか、とだけ言った。
奏は"頑張るねぇ?"なんて、ヘラヘラした笑顔をした。
平静を装ったが、心臓はバクバクだった。
まさか、そう来るとは思ってなかったから。
文化祭の一件以来、奏は無理をして変わろうとはしなくなった。
しかし、少しずつ、着実に"出来る事"を増やしていった。
行動範囲が、近所のスーパーからその先のケーキ屋まで広がったり、
人との触れ合いのリハビリを兼ねて、料理教室に通い始めたり。
料理教室では、元々得意であったことから、先生や生徒から一目置かれる立場になったとか。
そんな、奏の日常が華やかになり始めた矢先の、出来事だった。
俺は正直、不安だった。
奏の引きこもりの原因が、学校にあると、以前親父から聞かされていたから。
もしかしたら、また"あの時"のような奏に戻ってしまうかもしれない。
今のゆったりとした生活の方が、奏には合ってるのではないか、と。
でも、奏が、俺に、言っただ。
宣言したのだ。
"行く"と。
だったら、俺は何も言わない。
奏の背中を押すことに、徹することにしよう。
俺は、ちょっと待ってろ、と言って、2階の自分の部屋に行った。
そして机の棚からあるファイルを取り出し、それを持って奏の元に戻った。
『何?これ?』
「俺の学校の入試問題。」
俺の学校は公立だが、独自の入試試験を行っている。
俺が奏に持ってきたのは、その問題用紙だった。
俺が受験した時のと、前年度のと2年分。
本当は持っていてはいけないものなのだが、間違って持って帰ってしまったのだ。
俺達の代のは、雪里が。
前年度のは、文芸部の後輩が。
渡された時は、ゴミを押し付けるな、と思っていたが、今は、感謝している。
「とりあえず、これ、解いてみ?」
『うんっ!』
奏はテレビのサイドテーブルから自分用の筆箱を取り出し、問題に取り掛かった。
学力についても、非常に不安だったが、俺は奏の正面に頬杖をつき、静かに見守った。
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