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誰に何て言われようと。
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?奏side?
猛勉強を始めて、2週間ほど経った土曜日の昼下がり。
ボクは、ある喫茶店の裏口に立っている。
人を、待っていた。
りっちゃんは居ない。
ボク1人。
りっちゃんは、部活で午前中から学校に行っている。
その店は人通りの多い場所にあるからか、裏口の前を通る人も、多かった。
何人かの男が、ボクに話しかけてきたが、防犯ブザーを取り出し、紐を引く仕草をすると、すぐに逃げてくれた。
この防犯ブザーは、文化祭の時のように襲われないようにと、りっちゃんが買ってくれたのだ。
自己防衛のため、というのもあるが、りっちゃんが初めてくれたプレゼントとしても、ボクは肌身離さず持っている。
裏口で待ち続けて、数十分。
ギィィ、という音と共に、裏口の戸が開いた。
中から、少し長めの髪を一つに結んだ、あの男が顔を出した。
彼はボクの顔を見るなり、目を丸くして驚いた。
『奏チャン???』
「お久しぶり。
長谷川さん。」
どうしちゃったの、という風に口をポカンと開ける長谷川に、ボクは目を伏せて呟いた。
"折り入って相談が"と。
とりあえず中へ入って、と言うので、喫茶店の中にお邪魔した。
驚きからか、仕事中だからか、今日の長谷川はあまり突っかかってこない。
りっちゃんが居ないからかも、と考えると、胸がモヤモヤしてイライラして来るが、ケンカをしに来たわけではないので、抑えた。
喫茶店の中は、レトロで、大人な雰囲気が漂っていた。
ボクは適当な席に腰を下ろし、長谷川が来るのを待っていた。
店内には意外にも、客は少なかった。
やがて、マスターさんに休憩をもらってきた長谷川が、水の入ったグラスを両手に、ボクの正面の席に座った。
『で、相談って何?』
「りっちゃんから聞きました。
長谷川さん、勉強、得意なんですよね?」
律が?、と若干照れぎみに言う長谷川を睨まないよう、ボクは下を向いた。
そうだけど、と、ドヤ顔をする長谷川に、ボクは頭を下げた。
"ボクに勉強を教えてください"と。
落ち着いた店内に響く、アホ丸出しの叫び声。
マスターさんが、"雪里君"と優しげな、しかし鋭い一言を放つ。
すんません、と長谷川が身を縮こませる。
だからこの人はアホで変態なんだ。
ボクの悪態は口に出ることはなく、
ただ頭を下げたままだった。
『理由、説明してくんない?』
「りっちゃんと同じ学校に通いたいから。」
さらにアホ変態丸出しな叫び声が、あがる。
マスターさんが、グラスを拭きながら、"落ち着きなさい"と諭す。
絶対零度の微笑みを浮かべながら。
ヒッ、と背筋を伸ばす長谷川を、ボクは一瞬冷ややかに見つめてしまう。
気づかれなかったけれど。
本当、長谷川がバカでアホで変態でよかった。
長谷川は、震えた手で自分の水を飲んだ。
ボクも、ゆっくり落ち着いて、グラスを傾けた。
『へ?・・・
そ、そりゃ、大変だろーね』
「はい。学力の面で非常に。
なので、長谷川さんの助けを借りたいと思って。」
ボクはもう一度、頭を下げた。
長谷川は、震えるだけで何も言わない。
店内に流れるレトロチックな音楽だけが、ボクの耳を通り抜ける。
数分経って、ようやく別の音が入ってきた。
ガンッ!という、力任せにグラスをテーブルに置く音が。
『わかった!教えてやるよ!
教えてやるから、その敬語ヤメテっ!寒いっ!痒いっ!』
「・・・は?」
思わず、素のまま返事をしてしまう。
顔をあげると、大げさに自分の体を抱きしめて寒がる長谷川の姿があった。
どうやら、長谷川が震えていたのは、ボクが恭しく敬語で話しかけていたかららしい。
ボクはてっきり、ボクがりっちゃんの学校に入学すると、自分とも同じ学校になってしまうことに恐怖を感じていたのかと思った。
実際、ボクもそこはかなり悩みどころだったから。
長谷川と同じ学校なんて、吐き気がする。
アホでバカで変態の頭では、考えつかない悩みだったのだろう。
なおも寒イボをこする長谷川にイラっときたが、怒らせて勉強を教えてもらう話がなくなるのはイヤなので我慢する。
そして、下手に出ながら、イジることにした。
「そう言ってもらえて嬉しいです。
ありがとうございます。」
『だから止めろってばぁぁぁぁぁ!!!!』
長谷川がマスターさんにお盆で殴られて半泣きになるのを、
ボクは頭を下げたまま、ニヤリと笑ってやった。
?奏side? END
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