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誰に何て言われようと。
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やがてタイマーの電子音が鳴り響いた。
オレは、どっこらしょ、と立ち上がり、奏チャンの元へ腰を下ろす。
解答解説の載った紙を参考に、オレは丸つけを始めた。
シュッシュッ、とペン先が掠れる軽やかな音とは対象的に、
奏チャンの顔は青ざめていた。
なんか、死刑確実な囚人みたいだ。
最初は、"あまりにもデキが悪いんで不安になった"、とかだと思った。
しかし、採点をしているうちに、
奏チャンがバツが悪そうにしている本当の理由が、分かった。
オレは赤ペンを置き、真っ直ぐ奏チャンを見据えた。
「いつから勉強し始めたの?」
『・・・6月くらい。』
やっぱりね。
おかしいと思ったんだよね。
だって、アンバランス過ぎだから。
記述式の問題って、考え方の過程が明らかになるんだよね。
数学なんて特に。
だから奏チャンの解答を見て、違和感があったんだ。
つい最近勉強を始めたわりには、すごくしっかりとした答え方だったから。
基本に忠実って言うのかな?
教科書通りってカンジ。
でも、な?んか上手い具合に色んなトコから公式引っ張り出したり。
でも、だいたい詰めが甘くて間違ってて。
"焦って掻い摘んでやった"、というほどデタラメではなくて。
とにかく、違和感アリアリな解答ばっかりだった。
オレは赤ペンをテーブルに置く。
そっか、と言うと、奏チャンは訊いてもいないことまで語り始めた。
まぁ、ざっと説明すると、
律と一緒に住み始めて、律ともっと一緒にいたいと考えるようになった。
そんで、律と同じ学校に通えば、少なくとも1年間は今よりもずっと多く一緒にいられると結論付けた。
で、来年の入試に間に合うように、急いで勉強し始めた。
『最初はスポンジ状態だったから、スラスラ出来たんだ。
でも、10月に入って伸び悩み始めて・・・
もう残り少ないのにって焦って・・・
このままじゃ合格出来ないって思って・・・』
そしてオレの存在を知った、と。
そりゃ、焦るわな。
突然、壁にぶち当たったんだもんな。
しかも、律に内緒でやってたんだし。
勉強し続けなきゃいけない苦しみ。
見通りがつかない焦燥感。
ネガティブ思考。
完全なる、"受験生シンドローム"だ。
「辛かっただろうに・・・。」
『別に。
自分で決めたことだから。』
オレが心配そうに呟くと、奏チャンはプイッとそっぽを向いた。
ホント、素直だったり天邪鬼だったり忙しい奴。
オレが、ほぉ?、と含みを持った声を出すと、奏チャンは慌てたように正面を向いた。
自分の立場を忘れたわけでは、ないらしい。
奏チャンは、真剣な顔をして、頭を下げた。
『お願いします!
ボクに勉強を教えてくださいっ!』
オレの答えは決まってた。
奏チャンが、プライド捨ててまで直々に頭を下げずとも。
"Yes"だと。
だって、律に頭下げられちゃってたから。
"奏に勉強教えてくれないか"って。
昨日、学校で顔合わせるなり言ってきた。
何事かと思ったよ。
理由も話さないし。
でも、オレは承諾した。
"アイツは絶対素直には頼まないから、それとなく近づいてやって"
なんて真剣な顔されて言われたら、頷くしかないっしょ。
"なんで奏チャンのために、そこまでするんだよ"、ってムカついたけど、
すっげー深刻そうにするし。
まぁ、今日、全部の辻褄が合ったわけだし、納得の"Yes"を出そうではないか。
オレは再度赤ペンを手に取り、奏チャンのほっぺを突いた。
「オレはスパルタだからねぇ?
覚悟しろよぉ?」
奏チャンの目が、微かに揺れる。
そしてゆっくり口角を上げた。
『ありがとうございます!
長谷川さんっ!
感謝してもしきれませんっ!
よろしくお願いしますっ!』
・・・うん。
やっぱ、慣れないわ。
奏チャンの敬語。
わざとじゃなさげだから、許すけど。
『でも、アホ変態バカの心得とかは必要無いので、そこんところはよろしくお願いしますね?』
わざとデシタね。
ホントこの子、可愛くないっ!
?雪里side? END
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