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誰に何て言われようと。
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それから時はあっと言う間に過ぎ、
土曜日がやって来た。
"硯木高校 入試説明会"と書かれた紙が、体育館の壇上に貼られている。
そしてその体育館の中には、1500人を超える中学生、及びその保護者が集まっている。
普段ではあまり見られない光景に、生徒役員の心は、感動と興奮で乱れに乱れていた。
でも、そんな心の内を明かす者はいない。
俺の隣に立つバカを除いては。
『律っ!
見てみたまえよ!人がゴミくずのようではないかっ!』
「少しは黙れよ。雪里。」
"学校説明会役員"と書かれた腕章を付けてはしゃぐ雪里を、俺は冷たく見つめた。
俺が役員補佐に選ばれた後、雪里は自ら役員補佐に立候補したらしい。
俺は当日まで、つまり今日までそのことを知らされてなかったので、かなり驚いた。
そして、面倒臭いのが増えた、と肩を落とした。
案の定、面倒臭いうえに邪魔だった。
せっかく並べた来校客が座るパイプイスを、端からドミノ倒しされたら、誰だってイラっとくるだろう。
そしてとにかく、煩い。
喋りっぱなしだ。
先程も、ジムリ作品のキャラクター、フスカ隊長の名台詞を言ってたし。
俺に冷たくあしらわれて、少しは反省したらしく、雪里は大人しくなった。
俺は深く溜息をつき、壇上から一番離れた、体育館の隅に移動した。
雪里は、俺を追いかけるように歩き出す。
『それにしても、こんな人混みの中に奏チャン、入れんの?』
「入れるだろ。
入れなくても、外で立って聞くって言ってたし。」
そっか、と雪里がホッとした表現を浮かべた。
なんだかんだ言って、奏のことが心配らしい。
奏と俺は今日、別行動をとっている。
俺が役員補佐で奏より先に学校へ来たのもあるが、
奏が、自分の家に制服を取りに行くと言ったからだ。
今頃、家からこの学校の最寄りまでの電車に乗っているだろう。
俺は壁に掛かった時計を目を細めて見た。
時刻は午前9時35分。
説明会開始の10時半まで、まだもう少し時間がある。
『こんなにうじゃうじゃ人居ると、なんか気持ち悪くならない?』
「バカ。そういうこと、言うんじゃない。」
仮にも俺達の後輩候補だぞ。
と、失言ばっかの雪里に向かって言った言葉は、
生徒指導の先生の怒声で掻き消された。
来校者には聞こえてないらしく、全く騒ぎにはならない。
そりゃ、こんだけの人数が一斉に喋ってれば、生徒指導教員の怒声なんて蚊が鳴くようなもんか。
それでもやっぱり、近くに居る俺には聞こえるわけで。
生徒指導の先生の鉄拳制裁を変にかわしたせいか、思いもよらない激痛を感じた雪里が、叫ぶ。
『鼻がぁ、鼻がぁぁぁぁぁ』
いや、だから、フスカ隊長は要らないから。
はぁ、と俺は呆れた溜息をつき、悶絶する雪里を眺めていた。
ふと、斜め前から刺すような視線を感じた。
俺は視線の方向に目を向ける。
『おはようございます。先輩。』
「柏崎・・・。」
そこには、俺と視線が合うなりにっこりと微笑む後輩が、立っていた。
柏崎 八尋(カシワザキ ヤヒロ)。
文芸部の1年生部員。
物腰柔らかな好少年、と表現しておこう。
普段の彼は。
彼の書く作品は、普段の彼には似合わず、常にバットエンドだ。
大体は、登場人物皆殺し。
良くて、呪われて死期が近いがまだ生きている、という感じだ。
でも、普段の人当たりの良い彼を汲む人は、"影があってイイ"と口々に言う。
俺は、全くそう思わないが。
長々と説明したが、要するに俺は、
この、明らかに裏表あるだろう少年が苦手なのだ。
『先輩も役員だったんですか?』
「ああ。臨時補佐だけど。」
そうですか、と柏崎はにこやかに笑う。
"僕は本役員です"と口にするが、
俺はそんなこと訊いてない。
俺の気持ちを察したのか、それでは、と柏崎は俺から離れた。
"本役員"と言ったのに、本役員が集まっている壇上とは反対側に、
体育館から出るようにして、歩いていった。
時刻は午前10時28分。
トイレにしては、遅過ぎだ。
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