アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
誰に何て言われようと。
-
?奏side?
ボクは走っていた。
肩掛けバッグを揺らしながら。
黒い学生服を抱えながら。
硯木高校の校舎内を。
朝、りっちゃんが学校に行った後、
ボクは家に制服を取りに帰るため、
駅へ向かった。
通勤の人、通学の人、お出掛けの人。
たくさん、居た。
中でも一番多かったのは、入試説明会に行く人、だった。
皆が硯木とは限らない。
でもボクは、切迫感に苛まれていた。
"劣等感"
そう表してもいいかもしれない。
でも、ボクは怯まなかった。
とっても怖くて、正直、逃げ出したくなった瞬間もあった。
でも、それでも、
りっちゃんが待っててくれてる、って思うと、どこからか力が湧いてきた。
"頑張れよ"って、りっちゃんが背中を押してくれてる、そんな気がして。
無事に電車に乗ることが出来たボクは、家の階段を駆け上り、ハンガーに掛かった制服を引ったくるように取って、また駆け下りた。
それからはもう、覚えてない。
早くりっちゃんに会いたい って、必死に走ったから。
電車がホームに着くまでの時間も、もったいなかった。
そして、今、
硯木高校の校門をくぐり抜けたボクは、体育館に向かって、急いでいた。
だからだろうか。
前方から歩いてくる男の子に気が付かず、派手に衝突してしまった。
ボクの手から廊下に放り投げられる、学生服。
尻餅をついたボクに男の子が、"大丈夫?"と手を差し伸べる。
ボクはその手を素直に取り、引き起こしてもらう。
近づいた両者の体。
そして、ボクは言葉を失った。
男の子の、正体を知って。
『あれ?
久しぶりだね、桐生君。』
ボクの手を握ったまま離さない、
微笑を浮かべた少年。
"カシワザキ ヤヒロ"
全身の毛が逆立ったような気がした。
ボクの頭が、体が、"逃げろ"と信号を出す。
でもボクは動けなかった。
金縛りにあったように、
全く動くことが、出来なかった。
「やひろくん・・・?
な、・・・なんで・・・?」
口から水分がなくなる。
枯れたような震えた声しか発せない。
恐怖。
恐怖が、柏崎が、ボクを捕らえて離さない。
『僕?
ココの生徒だからだよ?』
にこやかに笑う。
でも、細められた瞳は、笑ってはいない。
笑っているようで、全く笑っていない。
そっか、とだけは、かろうじて言えた。
早くこの場から逃げたくて、掴まれた手を引く。
でも、全く動かない。
焦る、
気持ちが。
震える、
体が。
引き攣る、
顔が。
「はっ、放して・・・」
『桐生君、硯木受けるの?』
ボクの要求なんて、彼は聞かない。
聞く気が無い。
知ってる。
知ってた。
分かってた。
ボクは震える首を、縦に振る。
そっか、と、さらに細められる目。
胃の中のモノが逆流してくる。
喉元から一直線に走る、痛み。
『学校、通えるようになったの?』
柔らかく放たれる言葉。
でもそれは、猛毒を隠し包んだ、
甘いゼリー。
「お、お願い・・・します・・・
放して・・・くだ・・さい・・・」
なわなわと震える、乾いた唇。
全く変わらない、柏崎の表情。
でも、掴まれた手から力が抜けた。
ボクの体は、動かない。
『なんで泣きそうな顔するの?
僕が怖い?』
ボクは首を横に振った。
強がりとかじゃない。
頷けなかった。
首を下に向ける、それだけのことが、出来なかった。
ねぇ、と柏崎が呟く。
ボクは揺れる瞳を隠すように、顔を背ける。
『君、まさか、自分が普通の人間として生きられるって、思ってないよね?』
体を槍で貫かれたような衝撃が、ボクを襲う。
問いかけられる形の、命令。
"立場をわきまえろ"、と。
『ねぇ、君みたいな汚れた人、
この社会に必要なのかな?』
ボクは弾かれたように走り出した。
遠くへ遠くへ、
もう二度と帰ってこれなくなるくらい、遠くまで、
逃げてしまいたかった。
?奏side? END
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
51 / 124