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誰に何て言われようと。
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奏の蒼白な顔と、柏崎の爽やか笑顔を交互に見ながら、俺は溜息をついた。
俺は柏崎と別れた後、体育館へ急いだ。
もしかしたら、奏が来ているかもしれない、と。
しかし、予想は外れた。
雪里に訊いても、来ていない、と首を横に振られるだけだった。
そして俺はまた、体育館を駆け出た。
学校中を探し回り、すれ違う人、一人一人に訊いて回った。
"白くて小ちゃいの"と、
"硯木の有名1年"の目撃情報ルートが重なった時、俺はかなり焦った。
また柏崎が何かやらかす、
そう思って俺は足を速め、保健室に駆け込んだ。
蓋を、カーテンを開けてみたら、なんだ。
俺の予想していた状況と真逆ではないか。
俺は、今にも90度にぶっ倒れそうな奏の肩に制服の上着を掛け、
柏崎から守るように立った。
「柏崎、
オマエもう、奏にちょっかい出すの止めろよ。」
『別にからかってるわけじゃありませんよ。
ただの事後報告ですよ。』
"事後報告だろうが、何だろうが、もう近づくな"と睨むと、
柏崎は、はーい、と気持ち悪いくらい素直に離れた。
カーテンに手を掛けた柏崎は、
あぁ、とばかりに振り返る。
『僕、人の所有物を欲しがる癖があるので。
そこ、よろしくお願いしますね?』
何がだよ、と訊き返すが、柏崎はクスクス笑うだけで答えない。
楽しそうな柏崎とは対照的に、奏は顔をさらに青白くさせ、震え出す。
それでは、とカーテンが開き、閉じられる。
しーんと、お通夜のような空気が俺達を包む。
「俺、自分の同居人が殺人犯とか嫌なんだけど。」
うん、と聞こえないくらい小さい声で奏が頷く。
俺は数分間を置き、奏の手を引いた。
驚いて目をパチクリする奏に俺は、
"今日の目的は何だ?"と尋ね、抱き上げた。
俺の意図が読めた奏は、自分で歩けるから、とジタバタ暴れる。
そっと降ろしてやると、奏は俺から逃げるように走り出した。
追いかけて捕まえようとは思わない。
ちゃんと体育館に向かってくれると、なんとなく分かっていたから。
体育館に着いた奏は、俺を振り返る。
『やっぱり、終わってたね・・・』
「そりゃ そうだろ。」
説明会はとっくに終わってしまっている。
体育館には、乱れたパイプイスが散らばっているだけで、来校客は1人もいない。
奏の悲しそうな吐息が、閑散とした建物内に落とされる。
『な?に、しんみりしてんだよっ!
この小生意気ウサギっ!』
壇上のほうから、アホなくらい明るい声が響いてくる。
ダッシュで駆け寄ってくるその人物に、俺は無言で手をあげる。
斜め後ろで奏が固まる。
そんな奏の頭に、雪里がホチキス留めの冊子を置いてニカッと笑う。
『雪里特製、
"硯木高校入試説明会 配布資料集"!
必要なメモとかちゃんととったから、お家に帰ってちゃんと目を通すこと!』
はぁ、とおずおずと奏が受け取るのを確認し、
俺達は片手でハイタッチをする。
「サンキュッ」
『ね?オレが役員になってよかったっしょ!』
「それはどうだか。」
酷いっ!、と嘆く雪里と、未だに状況整理をしている奏に、俺は
"帰るぞ"と言って体育館を出る。
ブーブー文句を言う雪里と、それをあしらう俺の掛け合いを、奏は笑って眺めていた。
でも、その微笑みに元気が無いことは、すぐに分かった。
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