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誰に何て言われようと。
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ちょうど春休みが終わった頃だったかな。
4年生の始業式、ボクはクラス替え発表の名簿を見るために昇降口に向かった。
道行く人々が、ボクを見てクスリと笑う。
その感覚に慣れていたボクは、気にすることはないと、自分に言い聞かせた。
"いつものことじゃん"、と。
でも、今回は少し、いや、随分違った所に笑いがあった。
昇降口に貼られたクラス替え名簿に書かれているボクの名前には、
黒い線が一本、引いてあった。
ボクは、クスクスと嫌な笑いの渦を通り過ぎ、名前が記されたクラスまで歩いた。
教室には一応、ボクの席があった。
最初は、些細なイタズラだった。
持ち物を隠されたり、靴が片方トイレの便器の中に入れられてたり、無視されたり。
ボクは、そんなに気にしてなかった。
自我の形成時期には、よくあることだから、と。
でも、だんだんイタズラが"いじめ"に変わった。
机や教科書に、目立つくらいの酷い落書きが施された。
ボクの給食にはいつも虫や蛙が入っていた。
体育では、ボクとペアになってくれる人がいなくなった。
それでもボクは、耐えた。
いつか彼らが飽きてくれることを願いながら。
でも、ボクの敵は子どもだけじゃなかった。
担任に提出したはずのノートが、未提出にされていた。
クラスの子が隠したのかな?と思ってた。
担任が、職員室の大型シュレッダーにボクのノートを放り投げるのを、目撃するまでは。
ボクの担任は、若い女の人だった。
彼女は、ボクが1年生の時に、新任として学校に来た。
若いし、初めてだし、失敗することだってたくさんあった。
それは仕方のないことだった。
でも、父はそれを許さなかった。
"アンタはダメだ"、"アンタに教師は向いてない"、"中途半端なことするなら辞めちまえ"。
父の数々の暴言を受けた担任は、
2年間、休暇を取らざるを得ないくらいに病んでしまった。
やっと立ち直り、職場復帰を果たしたのに、
彼女はまた、ボクの担任になってしまった。
彼女のボクの父への恐怖と怒りが、ボクに向かった。
それは許させることではない。
子どもに罪は、無いのだから。
でも、彼女は可笑しくなっていた。
彼女は"子ども"になってしまった。
父の手によって、そうさせられてしまった。
担任が故意に起こしたミスに、ボクは謝り続けた。
担任は、生徒のボクへの仕打ちを、
無言で承知した。
辛かった。
憎たらしかった。
泣きたかった。
誰かに弱音を訊いて欲しかった。
でも、ボクには、そんな人はいなかった。
寂しかった。
独りは。
ひっそりと殻に閉じ籠り始めたボクの名を呼ぶ声が、聴こえた。
"久しぶり"と、目を細めて笑う、
柏崎八尋の声が。
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