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誰に何て言われようと。
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奏はそこで一旦、口を閉じた
俺は黙って、奏を見つめた。
心に罪悪感を、秘めながら。
俺は奏のことを、何一つ分かっていなかった。
ヘラヘラ笑い、"りっちゃん"と俺を呼ぶ奏が、こんなにも重く、辛い過去に縛られていたなんて、考えもしなかった。
引きこもっていたのだから、多少何かあったのだろうとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
柏崎についても、いじめの主犯格くらいにしか、思っていなかった。
奏が、背負いきれないくらいの重荷を背負っていることを、
俺は、気づいてやれなかった・・・
奏は、ふっ、と笑って、再び口を開いた。
『ボクはね、逃げたんだぁ・・・
父からも、八尋くんからも。
何も解決させないまま、ただ時間を無駄遣いしてたの・・・』
奏は静かに目を伏せた。
数分間、沈黙が走る。
そして、目を開け、"でもね"と、俺の頬に手を添えた。
『りっちゃんが現れて、ボクの世界に、真っ暗な闇の中に光が差したの。
りっちゃんが、
"親に振り回されるのはバカバカしい"って言ってくれて、
凍ったボクの心が徐々に溶けていったの。』
奏の頬を涙が伝う。
今まで見てきた中で、1番、
綺麗な涙だった。
『りっちゃんがいてくれたから、
ボクは一歩、前に進めた。
りっちゃんのおかげで、
ずっとずっと胸の奥に閉じ込めていた"本当のボク"が、出てこれた。
りっちゃんは気付いてくれた。
ボクが、意地っ張りで強がりで泣き虫だって。』
とめどなく流れる涙。
俺の頬の手は、微かに震えている。
『りっちゃんはボクを助けてくれた、救ってくれた。
隣に居てくれた。
何があっても、ずっと。』
"だけど"と、奏が俺から顔を背けた。
外された、奏の手。
『ボクは、こんなにも優しいりっちゃんに、酷いことした・・・
自分がされて嫌なことを。
りっちゃんに嫌われるために。
自分勝手な理由で、りっちゃんを・・・傷付けた・・・』
頭よりも体が先に、動いた。
俺は、奏の顔を自分の胸に押し付けた。
逃れようともがく奏の体を、硬く抱き締める。
「言ったろ?
俺は絶対、奏を嫌いにならないって。」
"でもっ"と奏が顔を上げそうになるのを、頭を押さえて阻止する。
"いいか、"と前置きをし、
俺は腕の力を緩めた。
すっ、と体を離した奏と視線が重なる。
でも、俺の視界は、涙でぼやけていた。
俺は不敵な顔をして、奏に告げる。
「誰に何て言われようと、
俺はオマエを手放す気なんて、
全っ然無いんだからな?」
"覚悟しとけよ?"という言葉は、
奏によって遮られる。
飛び込んでくる奏をしっかり抱き留める。
"ごめんなさい"
"ありがとう"
"大好き"
奏が肩を震わせながら、
今までで1番重みのある言葉を、
呟いた。
俺は奏の頭を撫でた。
"おかえり"
"ありがとう"
"これからも、よろしく"
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