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誰に何て言われようと。
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泣き疲れて寝た奏を抱え、階段を上る。
自室の扉を静かに開け、奏をベッドに寝かす。
安らかに寝息をたてる奏は、実年齢よりも幼く見える。
"りっちゃん"、と寝言で俺の名を呼ぶ奏。
俺は、ふっ、と微笑み、奏の頬を指でつつく。
「なんだよ、奏?」
つつく度に奏は、んっ、と吐息を漏らす。
クセになりそうな感覚。
俺は奏の頬に手を添え、"おやすみ"と呟く。
そして、起こさないよう気をつけて、自室を出た。
階段を下り、リビングに急ぐ。
リビングの角に置いてある電話の前に、立つ。
どちらに掛けようか数分、悩む。
そして、俺は電話の横に貼ってある付箋を見ながら、ボタンを押した。
"はい"、と妙に疲れたような声が受話器から聞こえる。
『どちら様ですか?』
「上村です。」
名乗った途端、吠えるように次々と言葉が発せられる。
耳がキンキンして、ほとんど何を言っているのか分からない。
唯一分かるのは、"奏"という単語。
それだけ。
俺は受話器から耳を離し、相手が一通り言い終わるのを待った。
受話器から、ハァハァと息切れする音が聞こえたので、
俺はゆっくりと、ハッキリと告げた。
「アンタは何もしないでいいから。つーか、何もするな。
父親ぶるな。
アンタが関わるとロクなことが無い。
俺が奏を守るから。
だから黙ってろ。」
先程より威力を増して吠える声に、
"はいはい"とテキトーに頷き、
受話器を置いた。
これ以上、桐生総一郎と話す気はない。
国際電話だし。
電話代、もったいない。
そして、今度はズボンのポケットからケータイを取り出した。
電話帳から名前を探し出し、発信ボタンを押す。
ワンコールで、相手は電話に出た。
『珍しいですね、
先輩が掛けてくるなんて。』
「オマエこそな。
日曜日の4時半だぞ?
ジジィでもこんな早起きしねェーよ。」
"面白い返しですね"と、
電話口でクスクス笑う柏崎を、暗いリビングで睨む。
化けの皮が剥がれようが、飄々とした態度は変わらないらしい。
柏崎は"それで?"と、楽しそうに尋ねてくる。
俺が何を言いたいか、分かってるくせに。
「オマエが奏にやったことは許されない。
俺も絶対許さない。」
『そうですね。当然ですよ。』
言い訳や弁解をする奴だとは思ってなかった。
しかし、こうもあっさり非を認められるのも、なんだか調子が狂う。
俺は咳払いをしてから、"だがな"と続けた。
「俺は、オマエの態度に疑問を感じた。
なんで憎い相手の世話なんかした?
なんで憎い相手に優しくした?」
奏の話を聞いていて思った。
行動にかなり矛盾がある。
最初は、奏を操る心理作戦かと思った。
奏の弱みにつけ込み、いじめ、その後優しくする。
そういう作戦かと思った。
しかし、それでも納得いかなかった。
理由は分からないが。
柏崎は、"そうですねぇ・・・"と、
困ったような声を出した。
『しいて言うなら、
僕、桐生君、気に入ってたんですよ。』
「は?」
ケロッとしたふうに、柏崎が答える。
俺は、納得出来なかったが、
"そうか"とだけ呟いた。
柏崎は、一瞬、何かを考えるように唸り、決め込んだように発言した。
『今は先輩のほうが、気に入ってるんですけどね。』
「はぁ?
何だよ、それ。」
俺の問いかけに、柏崎は、"だからぁ"と間延びした声を出す。
そして、ふふふ、と笑った。
『僕、先輩を追っかけて硯木に入学したんですよ?
文芸部も、先輩が居たから入部しました。』
「はぁ?
それ、どういう意味だよ?
オマエ、いつ俺に会ったんだよ?」
今度は、俺が話をブチ切られる側になった。
柏崎は、"それでは"と言って電話を切った。
ツー、ツー、と言う電子音が、俺の耳から離れなかった。
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