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たまには、な。
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世の中は、なぜこの時期になると浮き足立つのだろう。
まぁ、ビッグイベントがあるからなんだけど。
だとしても、だ。
「そんなに楽しみなのか?
クリスマスって。」
『楽しみだから、騒ぎたてるんですよ。』
「っ?」
俺は独り言に返事をされ、ビクリとする。
いや、返事だけが理由じゃない。
問題は、返事した相手だ。
俺は首をゆっくりと横に向ける。
棒付き飴を舐めながら目を細める後輩が、俺を凝視している。
「・・・柏崎」
『はい、何でしょう?』
「近い。」
俺は、互いの頬が付きそうなくらい近くに屈む柏崎の鳩尾を、肘で突く。
しかし、それはひらりとかわされ、
代わりに、バランスを崩した俺が、イスから転げ落ちる。
"大丈夫ですか?"と柏崎が差し伸べる手を、俺は掴むことなく起き上がる。
柏崎に気分を害した様子は無く、ニコニコしながら俺のパソコンの画面を一瞥している。
『先輩、全然進んでませんね?
大丈夫なんですか?部誌。』
「なんとかする。
つーか、人のこと言えんのかよ?」
俺は柏崎のパソコンを顎で差した。
柏崎はクスリと笑い、
"なんとかします"と答えた。
やはり、俺はコイツが苦手だ。
季節は一気に冬になり、セーターが要る時期になってきた、12月上旬、水曜日の放課後。
俺は文芸部部室に軟禁されている。
柏崎と、2人きりで。
俺は、今年に入って何度目かの、部誌の居残り作業を命じられた。
毎度毎度、なんで俺は〆切ギリギリにならないと書けないのだろう、
俺1人だろうし、手を抜いて早く終わらせて帰ろう、
などと考えながら、部室のドアを開けた。
1人では、なかった。
部室には、ニコニコしながらタイピングする柏崎八尋が居た。
俺は驚愕した。
苦手だからとか、嫌いだからとかじゃない。
入部して一度も原稿を落としたことのない柏崎が、居残り作業をしていたからだ。
俺に気付いた柏崎は、"おはようございます"と笑い、棒付き飴を差し出してきた。
受け取りに躊躇していると、柏崎はクスクス笑い、
"妖しい要素は入ってませんよ"と、飴を俺に握らせた。
"これには"と、付け足して。
背筋がゾクリとするのを隠しながら、俺はなるべく柏崎から離れた席に座り、パソコンを起動させた。
柏崎は、"2人きりですって"と笑いながら、自分の席に戻った。
そして、俺達は互いの世界に、入っていった。
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