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たまには、な。
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不毛な会話をしては黙る、を何度も繰り返しているうちに、
俺達は、西硯木駅に到着した。
改札を抜け、ホームに向かおうとした時、柏崎が足を止めた。
『僕、こっちなので。』
柏崎は、俺の進む方向と逆のホームを指差した。
俺は、"そうか"と言いながら、少し違和感を覚えた。
コイツは確か、奏と同郷だったような気がする。
小学校が同じだったのだから。
奏は、普通の市立小学校だと言っていた。
ならば、俺と同じ方向の電車に乗らなければならないはずだ。
柏崎が差す方向とは真逆の位置に、
奏の家が、あるのだから。
俺の考えを察したのか、
柏崎は目を細めたまま、眉を下げた。
『お義姉さんの家、こっちなんです。』
その言葉にハッとする。
コイツは、施設育ちで、
しかもあの事件以来、親戚に引き戻されたんだった。
俺はバツが悪そうに視線を逸らし、
"悪ィ"と呟いた。
柏崎は、"気にしないでください"と微笑んだ。
その目は、何もかもを諦めているような、そんな感じがした。
「その・・・
あんまり溜め込み過ぎるなよ?」
瞬間、柏崎の目が見開かれた。
口をぽかん、と開けて、俺をじっと見つめる。
そして俺も、
"表向きスマイル"を完全に崩した柏崎の素の顔に、目を見張った。
冷静沈着で、物事を悟ったように振る舞う、
優等生の"柏崎八尋"は、そこに存在しなかった。
ただの高校生が、俺を見つめていた。
頭上で、電車が通過する。
ガタガタと車体が揺れる、独特の音。
しかし、その音はBGMにもならなかった。
俺達は全く動くことが出来なかった。
立ち尽くす俺達を、すれ違う人々が不思議そうに見る。
時間が、止まっているような、気がした。
どれくらい、両者が乗る電車が通り過ぎただろう。
先に動いたのは、柏崎だった。
『先輩、変わりませんね。』
え?、と思った瞬間、
俺の顔を、柏崎の両手が捕まえた。
グイッと力が込められる。
近づく、両者の顔。
あと数センチで唇が重なる、
そんな距離で、ピタッと動きが止まる。
『先輩、ズルいですよ。』
囁きと共に、顔が離れていく。
呆気にとられている俺の顔を、
寂しげな瞳が見つめる。
そして、いつものように目を細め、
くるりと後ろを向いた。
『先輩、
僕はどこぞの白ウサギと違って、
アナタの気持ちなんて、
考えてあげませんからね?』
「え?
それ、どういう意・・・」
『またね、先輩。』
柏崎は、俺の問いかけを遮り、
スタスタとホームへ向かって歩き出す。
俺はそれを、ただ某然と見つめた。
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