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たまには、な。
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冬になると途端に辛くなる水作業。
その代表格、食器洗い。
俺は台所に立ち、泡立てたスポンジで皿を洗う。
奏はその隣で、洗い終わった皿を布巾で拭く。
最近の、食後の風景。
奏が受験勉強を始めてから、俺は今まで以上に家事を手伝うようになった。
掃除や洗濯、アイロン掛け。
食事の支度は、盛り付けたりくらいしか、出来ないが。
この食器洗いも、その1つだ。
"1人でやる"と言い張る奏を口説き落とす感じで、この時間を作った。
『りっちゃんの手、荒れたりしたらヤダよ?』
「俺は大丈夫。」
心配とちょっとの拗ねを含みながら言う奏に、俺はキッパリ返す。
手が荒れたところで、俺にはそんなに不利益は無い。
それに、奏が着用しろと煩いから、
ゴム手袋もしてるし。
俺は皿の泡を水で流し、奏に手渡す。
奏はそれを優しく受け取り、撫でるようにして拭いていく。
それを繰り返しながら、互いに今日の出来事を語っていく。
「あ、そうだ。
24日、雪里、バイト入ったらしいから。」
『えっ!』
奏が、あからさまに嬉しそうな顔をする。
そんなに嫌いか、雪里を。
俺は内心で苦笑いをし、"だから"と続ける。
「俺の予定に付き合ってもらいたいんだけど、大丈夫か?」
『もちろん♪
りっちゃんの行くとこなら、どこでもついて行くよ!』
えへん、と胸を張る奏に、俺は吹き出しそうになるのを必死に抑える。
たしかに、コイツならどこでも追ってきそうだな。
"りっちゃんりっちゃん"って。
3歩下がって。
俺は奏に"ありがとな"と微笑む。
奏は、“当然です"とニッと笑い返す。
『それで、どこに行くの?』
"お楽しみもいいけど、知りたいなぁ"
と、甘えた声を出す奏に、
"楽しい場所じゃないぞ"と前置きをしてから、答える。
「母さんの墓参り。
命日だからさ。」
『・・・・え?』
数秒の間を経て、奏が短く返事をした。
目を丸くして。
そしてすぐに、その目を泳がせた。
やはり、墓参りはないか。
まぁ、仕方ない。
本当につまんないのだから。
雪里とは違うし。
奏にとって母は、顔も名前も知らない人だからな。
俺は固まる奏に、"無理するな"と笑う。
違う日に1人で行くから、と。
だが、奏は頭が取れそうなくらい激しく首を振った。
横に。
イヤとかじゃなくて、と。
『りっちゃん、いいの?
ボクが一緒に行っても・・・』
「いいから誘ってるんだけど?」
不安そうに尋ねる奏に、少し意地悪く答えてやる。
どうやら、つまるつまらないではなくて、
単に気後れしていただけらしい。
他人の自分が同席していいのだろうか、と。
俺は最後の皿を奏に手渡し、
横を通り過ぎながら、奏の頭に手をぽんっと置いた。
「母さんに見せてやるんだよ。
好き嫌いが多くて、全然食べてくれなかった自分の息子の胃袋を掴んだ、
同居人の顔を。」
背後で何かを叫ぶ奏を置いて、
俺は風呂場に歩いていく。
せっかく余裕ぶって隠した照れ顔が、バレないように。
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