アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
たまには、な。
-
終業式が終わり、冬休みが始まった。
今年は"あの儀式"が無いと思っていたが、
昨日、好奇心旺盛な14歳が親父の代わりに執り行ってくれた。
"通知表提示"という、
学生恒例のな。
夏休みはそこまでは関与しなかったのだが、今回はちゃんと役目を果たしに動いた。
幸い、コソ勉オタッキーが親友なので、3より下は無かった。
まぁ、そんなこんなで冬休み1日目、24日が来たわけだ。
『りっちゃん、寒くない?
大丈夫?』
「平気。」
"オマエは?"と訊き返すと、"寒い"と返ってきたので、
俺は自分のマフラーを巻いてやった。
隣で歩く奏は、着膨れを遥かに超えて、丸々している。
どうやら奏は、極度の寒がりらしい。
俺達は予定通り、母さんの墓参りに向かっている。
早起きをし、出来るだけ早い時間の電車に乗った。
母さんの墓は、電車で2時間ほどのお寺にあるから、
午後からでも十分、行って帰ってこれた。
だが、今日はクリスマスイブだ。
遅くなれば遅くなるほど、人が多くなる。
俺もそれは面倒臭いし、奏にも負担が掛かりそうなので、早めに出た。
寺に続く長い石段を、2人で息を切らせながら上っていく。
いつの間にか奏の速度が落ちていて、姿が見えなくなる。
俺は数段下りていき、奏の名を呼んだ。
俺が差し出した手と、奏の汗ばんだ手が重なる。
持ち替えた花束から、ひらりと紅い花びらが落ちる。
『散っちゃったね・・・』
「花びらの枚数なんて、気にしないだろ。」
足元の紅を見ながら呟く俺に、
"花びらじゃないよ"、と奏が微笑む。
どう見ても、花びらだろ。
奏の手が俺から放れ、代わりに落ちた紅を拾い上げる。
『ポインセチア。
花びらに見えるのは苞で、この小っちゃな花を包み守ってるの。』
奏が俺が抱える花束の中を指差し、
ふっ、と笑う。
たしかに、紅の中に白っぽい小さな花が包まれている。
「ずっと花だと思ってた。
毎年、買ってたのにな・・・」
『じゃあ、ポインセチアの花言葉、知ってる?』
俺が首を振ると、奏は、ふふっ、と笑い、石段をトトトンッと数段駆け上がり、"あのね"と振り返る。
『祝福、博愛、幸運を祈る だよ?』
"他にも何コかあるけど"と付け足し、
奏は慈愛に満ちた微笑みを、浮かべる。
俺は目を伏せ、"母さんらしいな"と呟き、お礼も兼ねて、奏の隣まで駆け上がり、そのまま奏の左手を掴んだ。
俺達の体の揺れと共に、
一枚一枚、紅い母の温もりが、
石段を染めていった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
82 / 124