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たまには、な。
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ポインセチアは、母さんが好きな花だ。
"この真紅がクセになるのよね"と、
病室の窓の横に、飾っていた。
俺は正直、あまり好きではなかった。
母さんが辛そうに口から出す、あの鮮血の色に、似ていたから。
そう本人に言ったこともある。
母さんは、
"ガキにゃ分からん美しさよ"と笑っていた。
「ガキ、か・・・」
"たしかにな"と苦笑いをする俺に、
奏が不思議そうに見つめてくる。
奏に教えてもらって、ようやく分かった。
いや、それだけじゃない。
奏と出会って、守るべき人が出来て、俺はようやくポインセチアの美しさにたどり着いた。
誰かの喜びを分かち合う、"祝福"
すべてのものを愛する、"博愛"
自分以外の人の、"幸運を祈る"
小さなものを守る、"紅き苞"
自分のことしか考えてなかったあの頃の俺には、絶対分からなかった。
奏のおかげで、母さんと、また一つ、大人の会話が、出来た。
俺は右手に力を入れる。
奏の手が、それに答えるように握り返す。
俺は最後の二段を跳び上がる。
引かれた奏が短く宙に浮く。
足が石段にぶつかるギリギリで、奏は俺の腕の中に引き上げられる。
すっぽりと収まる奏の額に、俺はデコピンを打ち込む。
「軽過ぎ。
肉が無いから寒いんじゃん?」
『り、りっちゃんこそ!
身長の割りに軽いじゃんっ!』
奏が額を押さえながらムッとする。
俺は、"俺はいいんだ"、とばかりに奏の頬を一掴みする。
だが、本気ではやっていないので、
すぐに解放してやり、境内へ歩を進める。
後ろから奏がちゃんとついて来ているか、確認しながら。
寺の外で落ち葉の掃き掃除をする住職が、俺の姿を見て和かに笑う。
俺はそれに答えるように、"お久しぶりです"と会釈した。
後ろから、とてとてと走ってくる奏が1テンポ遅れてお辞儀する。
住職の目が、一瞬見開かれて、すぐに笑みに変わる。
"ごゆっくり"という住職の言葉にお礼を言い、俺は柄杓と桶を取りに向かう。
『住職さん、ボクに驚いてた。』
「ああ、毎年1人で来てたから、
珍しかったんだろ。」
"りっちゃんパパは?"と首を傾げる奏に、俺は苦笑いで返す。
それを、間違って捉えた奏は、
"りっちゃんのお父さんは?"と慌てて言い直す。
そこ、そんなに気にしないのにな。
奏らしくて、いいと思うんだが。
俺は、"違う違う"と笑い、苦笑いを言葉に換える。
「お互い、この日は泣き顔を見せないんだよ。
俺は性格上、親父は威厳の都合で。」
"親父に威厳なんて、存在しないのに"
とククッと笑う俺の頬を、奏の手が包み込む。
ヒヤリとした感覚が、全身を駆け巡る。
『りっちゃん・・・
無理しちゃ、ダメ・・・
強がっちゃ、ダメ。』
今にも泣きそうな瞳が、俺を捉える。
俺は、頬の手に自分の手を重ね、
"分かってるって"と、やんわりとそれを外し、桶に水を入れる。
斜め後ろで、"りっちゃん"と、責めるような、自分の無力さを嘆くような問いかけが聞こえる。
俺は返事の代わりに、花束を手渡す。
奏は一瞬躊躇ってから、受け取った。
俺は桶の中に柄杓を入れ、それを持ち上げて、歩き出す。
再度、奏が俺を呼ぶ。
俺は振り返り、奏に向かって、
今出来る最高の微笑みを、浮かべる。
「今日は泣きに来たんじゃ、ないから。」
泣きに来たんじゃない。
報告に来たんだ。
この報告は、泣き顔じゃ、言えない。
それは、失礼だ。
母さんにも、
奏にも。
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