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たまには、な。
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そう。
俺は利用したんだ。
奏の過去を。
あの時点では、"何かあった"程度の認識だったが、
確かに、俺は奏の過去を利用した。
自分の、ために。
伏せた目を開き、噛みしめるように墓石に向かって呟く。
「俺は心のどこかで、奏にそうされたいと、願っていたのかもしれない。」
嫌悪感や罪悪感が無かったわけではない。
"逃げられるなら逃げたい"、と思った瞬間もあった。
それが出来るタイミングも、あった。
しかし、俺はそれをしなかった。
奏に押し倒された時、俺はあまり抵抗はしなかった。
"奏のためなら"、と、もっともな理由を取り付けて。
でも、それは"正当さ"に捻じ曲げられた考えだったのでは、と、
最近、思うようになった。
俺は、奏を自分の側から離したくなかったのかもしれない。
でも、本人が離れたいと願うなら、
もう会うことがないのかもしれないなら、
せめて、忘れられないように、と、
そう願ったのかも、しれない。
俺は、自分勝手で傲慢な願いを、
奏の過去を利用して叶えたのかもしれない。
「俺は、俺の勝手さで、
奏を傷付けてしまった・・・」
奏がどれほど自分を責めるか、知っていたくせに。
硬く握った掌から、痛みを感じる。
食い込んだ爪から、血が滲むように出てくる。
奏が、"もういいから、帰ろうっ?"
という悲痛な叫びと共に、俺の腕を引っ張る。
ずるりと尻餅をついたような格好になった俺は、墓石を見上げながら自嘲気味に笑い出す。
ああ、もう。
俺はホント・・・
「自分勝手だよな・・・」
『りっちゃんっ!』
バシンッ!と痛々しい音が、墓場に響き渡る。
張り飛ばされた俺は、ふらりと、母さんの墓石の前でへたり込む。
肩で息をする奏の手は、俺の頬より赤くなっていた。
『りっちゃん・・・』
「悪ィ・・・。
俺、自分しか見えてなかった。」
再び奏が俺の名を叫ぶのと、
俺が母さんに語りかけるのは、同時だった。
「母さん、俺、"守ってやりたい"って相手、見つけた。」
この、白くて小さい年下のウサギを、
「俺は、側で見ていたい。」
自分勝手な願いを、俺は母さんに告げた。
奏が目を丸くする。
涙を流しながら。
俺はすっ、と立ち上がり、
突っ立ってる奏に歩み寄り、
ポケットからハンカチを取り出して涙を拭いてやる。
奏の耳元で、"泣き虫"と囁き、
後ろを振り返る。
墓石に腰を掛けて、
"で、何?ガキンチョ"と不敵に笑う女性に、
負けないくらい堂々と宣言してやる。
「俺はコイツの幸せを、1番近くで見守るから。」
投げ出したくても出来ないくらい、
ハマってしまった、
この、"桐生奏"という男を。
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