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?八尋side?
12月23日。
僕はお寺に続く石段を、何の躊躇もなく涼しげに上っていく。
見た目からして、あまり体力が無いように思われるが、
人は見た目ではない。
「これが無ければ、もっと楽なんだけどね。」
僕は左手に持つものを ちらりと見、
仕方ないかとため息をついた。
石段を上り切ると、和尚さんが竹箒で落ち葉を集めていた。
僕に気付いた彼は、"ごゆっくり"と和かに笑う。
僕は、いつもの爽やかスマイルを作り、"ありがとうございます"と答える。
彼は、僕が誰の墓参りに来たか、知らないのだろうね。
桶に水を入れ、持ち上げる。
柄杓は要らない。
それは、僕の仕事じゃないから。
墓石の列を延々通り過ぎ、
最奥の墓石の前で足を止める。
水を桶から花生けに移し、
その中に、左手に持ったものを挿す。
雨風でくすんだ銀色に、
目に痛いくらい明るい黄色が、自己主張する。
僕は、線香一本備えることなく、
墓石に向かって手を合わせる。
数秒間目を閉じてから、ゆっくり開け、墓石にニッコリ笑ってあげる。
「今年も来ましたよ?
上村静さん。」
向日葵が風に揺らされる。
静さんのことだから、
"今年もサンキュ、向日葵のガキンチョ"
とでも言っているのだろう。
僕は、さらに目を細めて語りかける。
「今年、やっと律さんに会えましたよ。
彼、僕のこと全く覚えてませんでしたけど。」
ホント、何一つ覚えていなかった。
僕、密かに傷付いたんですよ?
上村先輩。
"でも"と、僕は墓石に手を付ける。
墓石の冷たさが、右手を流れる血を凍らせる。
「いいんです。
思い出させますから。
どんな手を、使ってでも。」
壁に追い詰められる形で、
青白い顔の女性が僕を見上げる。
"へー、それは楽しみだ" と。
何の心配も無いような、表情で。
僕は墓石から手を放し、後ろを向いてボソッと呟く。
"貴女には敵いませんね" と。
僕はそのまま桶を手にし、質素な墓に向かって目を細める。
「静さんは知ってると思いますが、
僕は貪欲なんです。」
だから、
上村先輩の心も、体も、息も、声も、時間さえ、
僕のものにしてしまいますから。
僕は"来年、また来ます"と、
墓石に一礼し、もと来た道を歩く。
ふと言い忘れていたことを思い出し、静さんに向かって言葉を掛ける。
「明日、律さんと一緒にお墓参りに来る子、
とっても良い子なので仲良くしてあげてくださいね?」
僕はクスリと笑い、
"ライバルですけど"と呟き、
墓の道を歩き出した。
?八尋side? END
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