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たまには、な。
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ゲーセンから出た俺達は、
奏の要望により、電車に乗っている。
行き先は、分からない。
ただ、方向的には奏の自宅方面だった。
揺れ動く窓の外を、奏は黙ってジッと見つめている。
その横顔は、何かを抱え込んでいるような、真剣さを持っていた。
ドアに映る俺の表情に気が付いたのか、奏が振り返る。
"今日最後のワガママだから"と、
申し訳なさげで、でも少し明るめな表情を作った。
俺は、“そうかよ"と溜息混じりに返し、網棚に置いた荷物達に目を向けた。
俺の思った通り、降車駅は奏の地元だった。
"少し歩くから"と奏が言うので、
両手の荷物を駅のコインロッカーに預けることにした。
奏は、自分の斜め掛けバッグ以外をギュウギュウと詰めていく。
"りっちゃん"達の悲痛な叫びが聴こえるのは、俺だけだろうか・・・
俺は、奏へのプレゼントを自分のリュックに隠し入れた。
箱の中身は、割れ物の一種なので持ち歩くのは少し不安だったが、
これから行く所で渡せるかもしれない、と期待した。
イベントの雰囲気、イベントの魔法に流される形で渡したいから。
家に帰ってからじゃ、上手く渡せないと思ったから。
他の人には申し訳ないが、ロッカーを五個も占領し、
俺達は改札を抜けた。
冬の夜風が、俺達を凍らせる。
寒さで歩きが遅くなる俺の手を、
奏が握り締め、小走りに引っ張る。
引かれるがままに、奏の住んでいた町を進んでいく。
街灯があるとはいえ、暗く、詫びしさを感じる。
そう言えば、夜に来たの初めてだな・・・
そんなことを考えているうちに、
二股道に辿り着いた。
片方が、桐生家のある住宅街への道の道だ。
しかし、奏はそちらではなく、もう片方の道をズンズン進み始めた。
「奏、
今更ながら、どこ行く気なんだ?」
戸惑い気味の俺の顔を振り返り、
奏は、ん?、と首を傾げてから呟いた。
『ボクの、思い出の場所。』
"思い出?"と怪訝そうに尋ねると、
"うん"と微笑が返ってくる。
先程以上に思い詰めたような、
なんとも言えない表情だ。
理由を訊こうと開いた口が、
"早く行こう"という催促の言葉で、閉じられる。
暗い夜道を、2人でひたすら歩いていく。
遠くから、どこかの家族が楽しげに語り合う声が聴こえてくる。
時々、繋がれた手に力が込められる。
斜め後ろから"奏"と声を掛けても、
俺が欲しい言葉は返ってこない。
ただ"もうすぐだから"と、眉をハの字にするだけだった。
10分ほど歩き続けたところで、
奏がピタッと足を止めた。
"着いたよ"と、奏が指差す方向に目を向ける。
そこは、小さな教会が建っていた。
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