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たまには、な。
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かなり古びていて、枯れたツタやら何やらがびっしり絡まっていたが、
それは確かに教会だった。
俺は見上げながら、ぼそっと呟く。
「寺に教会、か・・・」
昨日、母さんの墓参りで寺に行ってきたばかりなのにな。
和洋折衷というか、日本人らしいというか何というか・・・。
奏の思い出の場所じゃなかったら、
何のギャグだよ、と飽きれてるところだ。
扉を開け、中に入っていく奏の後を、俺は黙ってついていく。
主に礼拝堂として使われていたらしく、ステンドグラスとキリストの絵が、月の光で照らされていた。
奏はキリストの前まで歩いていき、
跪いて祈りを捧げる。
俺は少し離れた席に座り、祈りの代わりに目を伏せた。
"思い出の場所"ねぇ・・・
多分、いや、きっと。
閉じた目をすっ、と開く。
目の前に、少し憂いを含んだ目をした奏が立っていた。
『懺悔タイム、終了には短過ぎかな?』
「昨日もしてたんだから、いいんじゃないか?」
"そうだけど"と口ごもる奏。
俺は隣の席にズレ、空けた場所をべしべし叩く。
「座れよ。聞いてやるから。」
"うん"と短い返事ののち、奏が俺の隣に来た。
遠慮がちに、俺の手を握り、奏は目を瞑る。
『放課後、よくここでお祈りして帰ったの。
自分のしたこととか、されたこととかを許してもらうために。』
「ここ来た時、何となく予想してた。」
俺の答えに、"だと思った"、と安堵が混じった声を出す。
"思い出の場所"が、必ずしも楽しいものとは、限らない。
辛かったこと、
悲しかったこと、
諦めてしまったこと、
小学生だった奏の"思い"を、知っている場所。
『ずっと来てなかった。
許しを乞うことさえ、おこがましく思えたから・・・』
"でも"と、奏が目を開く。
その瞳に、憂いや懺悔の意は込められていない。
あるのは、勇気と希望。
握られた手に一瞬、力が入る。
そしてそのまま、自分の頬に持っていった。
暖房も付いていないのに、その頬は温かかった。
奏は愛おしげに、俺の手に頬を擦り付ける。
『りっちゃんと来ることで、
"思い出"の意味、変わったよ?』
「そっか。」
俺の答えに満足したのか、奏は微笑み、掴んだ手を放した。
そして、おもむろに斜め掛けバッグを開け、中からラッピングされた箱を取り出した。
『りっちゃん、
クリスマスプレゼント。
受け取って・・・くれるかな?』
おずおずと差し出された箱を、俺は迷いなく受け取った。
"当たり前だろ。"と、ぶっきらぼうに告げながら。
そして、俺もリュックからプレゼントを出し、奏に押し付けた。
泣きそうになる奏の頬をつねり、
"開けてみろよ"と、照れ隠しの言葉を吐いた。
互いに、貰ったプレゼントの箱を開ける。
そして、呟いた。
「おいおい・・・」
『本当に・・・?』
互いに顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
静寂な教会に、2人の笑い声が響く。
互いの膝の上で、色違いのマグカップがカタカタと揺れていた。
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