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悪いかよ。
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?奏side?
暖房の温かい風が、ボクの横顔を撫でる。
トントンと包丁のリズミカルな音は、台所を通り、リビングへ流れていく。
その先のソファには、少しやつれた、でもとても楽しそうな笑顔がある。
ボクはその人に、切ったばかりの伊達巻きを数切れ、お皿に乗せて持っていく。
"ありがとう"とお皿を受け取った彼の顔は、とても高校生の親とは思えないほど、若々しかった。
お揚げとかき揚げを買い忘れたと気付いたボクと長谷川は、唖然と固まってしまった。
そんなボク達に、りっちゃんは苦笑いをしながら、"買ってきてやるよ"と言ってくれた。
すかさず、ボクと長谷川は、"自分が!"と自己主張した。
忘れたのはボク達なのに、りっちゃんをこの寒空の下に出て行かせるなんて出来ない。
でも、りっちゃんは"オマエは料理を頼む"と言って、玄関に向かっていってしまった。
長谷川の後ろ襟を掴みながら。
玄関先で、りっちゃんは申し訳なさそうな声で
“親父を頼む”とボクに告げた。
ボクは笑って、"はーい"と返事をした。
複雑な気持ちを、胸に秘めながら。
『わたしと2人っきり、緊張しちゃいますか?』
パクっと伊達巻きを口に運びながら聖也さんが、
立ちっぱなしのボクの手を引き、ソファに誘いながら問いかける。
その言葉には、嫌みも蔑みも無い。
ただ純粋に、ボクのことを心配してくれているからこそ、出た言葉なのだろう。
それが、ボクには痛かった。
緊張してないって言えば、ウソになってしまう。
りっちゃんのお父さんだし、
いくら存在が可愛い人だからって、
自分より年上だし。
でも聖也さんは、積極的にボクに話しかけてくれた。
上司からの預かり子としてでも、
自分の息子の友達としてでもなく、
自分の友達として。
ときに前に立ち導き、ときに後ろに回り甘えて。
まるでボクと昔から親しかったかのように、
ボクが、この輪の中に居て当然のように振舞ってくれた。
聖也さんだけじゃない。
りっちゃんも長谷川も、
ボクを自然と自分達の隣に連れてってくれた。
当たり前のように、
ボクを存在させてくれた。
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