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男の正体
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男はこの国の王様だ。
一度顔を見たことがある。
大きな船に乗っていたのだ。
そこで「王様」と呼ばれていた。
あれは天候が悪く、海が荒れていた日だった。
「王様! それ以上前に出ては危険です!」
「だが、一人船から投げ出されてしまった! 助けねばこの波ではすぐに溺れてしまう。 私のわがままで船を出したのだ」
「しかし……! この辺りには人魚達がいるとの噂があります。 海に引きずり込まれてしまいます!」
「うるさい! 誰も行かないなら私がいく!」
バシャンと飛び込む音が聞こえてきて、たまたま様子をうかがっていた俺は王様の姿を目で追った。
必死に泳いでいたが、溺れている男にたどり着く前に大きな波にのみこまれてしまった。
俺は海の中にもぐっていって様子をうかがった。
ブクブクと上がる泡を見つけて近くへと向かう。
王様と呼ばれていた男の回りをクルクルと回って観察した。
こんなに人間を近くで見てのは初めてで珍しかったのだ。
驚きで見開かれた目は深い青色だった。
人間は人魚の敵として憎かったが、何故か俺はその時、男の服を引っ張って水面へと引き上げていた。
服を握った時に男は気を失ったようだった。
まぁ、いい。
とりあえず水面に引っ張り上げて、近くに流れていた大きな木の板の上に転がしておいた。
そのまますぐに深く潜った。
あのままではすぐにまた溺れて死んでしまうかもしれない。
それなら何故助けてしまったのか。
王様なら殺しておくべきだった。
人間は憎い。
たが、あの瞳の色は嫌いではなかった。
だからこれはある意味自業自得なのかもしれない。
助かっていた事に驚いたし、俺を覚えているのかいないのか分からないような態度も不思議に思った。
あの時のことに触れないのは意図的だろうか、それとも忘れているのか。
男が何も言わないのなら考えても俺がわかるはずはない。
ただ……
あの時殺しておかなかったから俺は今閉じこめられているのだろう。
何かしら執着されていることには気付いていた。
俺は綺麗だと思っていた、あの深い青色の瞳を見るのが怖いと感じているから。
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