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砂糖 (sideアーサー
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「わ……」
ユーリを椅子に座らせると、ユーリの口から小さな感嘆の声が漏れた。
「す、すごい…!…です…!アーサーさ…すごい…!!」
キラキラと輝く目を向けられアーサーは眩しそうに目を細める。
「…私が作ったのではない。」
「…すごい………」
「………………そうだな…。」
ユーリは全く聞いていないようだ。
決して、決してアップルパイに嫉妬するわけではないが、少しはこちらを向いて欲しい。
アーサーは内心そんなことを考えながらもユーリの隣に座った。
ユーリの目はメイドがパイを切り分けるのを必死に追っている。
サクサクと軽快な音を立てながら割れたパイの中から、宝石のような林檎が現れた。
それぞれの前に皿が置かれ、ユーリは何とも言えない嬉しそうな顔でそのパイを見つめる。
「…食べていいぞ。」
ようやく目がこちらを向く。
「そ、そんな……アーサーさまから…どうぞ…!」
やはりまだ主人より先に食事をするのは気が引けるらしい。
だがこれはもともとユーリのために作らせた物であって、やはりユーリが1番に食べるべきだ。と、アーサーは思う。
「ねー!早くー!先食べていーい?」
「ど、どうぞ…!」
「待て、アドルフ。これは元々ユーリのために作らせた物だ。ユーリが先に食べるのが筋だろう。」
「えー……」
アーサーの制止の声にすでにフォークを構えていたアドルフは腑に落ちない顔をしながらも手を下ろす。
「いえ…!あの、本当に……アーサーさまとアドルフさまが先に食べ、むぐ。」
まだ何か言おうとしたので、問答無用でユーリの口にパイを突っ込んだ。
「……熱くないか?」
「…は……だいじょぶ…へふ……」
やけどをしないように小さく切ったつもりだったが少し熱かったのかはふはふと言いながら口を動かし、しばらくするとこくりと喉が上下に動いた。
「…お…美味しい…!!です!!」
「そうか。もっと食べろ。」
どうやらアップルパイはえらく気に入ったようだ。
ユーリはアップルパイを美味しそうに一口一口味わっているようだったが、すぐになくなってしまった。
アーサーはもともと甘い物が好きではないので、それをユーリにスッと差し出す。
「そんなに気に入ったなら好きなだけ食べろ。」
「あ、だ、ダメです…!アーサーさまも…食べて…下さい……お、美味しいですから…!」
「………だが…私はだな……」
「あの、でも……ぁ、アーサーさま…も一緒に食べた方が……美味しい…ですし……」
「…、…。」
「あーだめだめー!アーサー兄ちゃんは甘い物嫌いなのー!!そんなことも聞いてないのー!?」
アドルフはここぞとばかりに大声を出した。
ユーリはそれに一瞬ビクッとしたがオロオロと目を彷徨わせ俯く。
「っ、あっ、ご、ごめんなさい……お、俺…し、知らなく…て………わ、わざとじゃ……ごめん…なさい……」
しゅん、と項垂れてしまったユーリに、アーサーは何を思ったのか
「いや、私の好物は甘味だ。」
と言い放ってしまった。
「「え…」」
そしてユーリに一目やるとパイにフォークを刺す。
「………美味い。」
本当は思ったより甘ったるくて食べていられない。
しかし『一緒に食べたらもっと美味しい』などと言われたら無理してでも食べるしかないだろう。
というか味など最早どうでもいい。
ユーリが喜ぶなら食べるしかないだろうが。
「ぁ、だ、大丈夫ですか……アーサーさま……ごめんなさい……あの……」
「美味いから大丈夫だ。」
ユーリは相変わらずの無表情で言うアーサーの様子をしばらく伺っていたが、嬉しそうににこりと笑った。
アップルパイの甘さなのか、はたまた別のものか、口から砂糖が漏れ出そうだった。
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