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名前
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「…ゆ…ー…り…」
アーサーが出ていってから、ずいぶんと練習をした。
自分の名前が書けることが嬉しくて、何度も何度も書いた。
「……えへへ…」
生まれて初めて書く文字はぐちゃぐちゃで、大きさもばらばらだが、ユーリは楽しくて仕方がない。
紙とペン。
これは地下にいた時、メイドが持っていたのを見て、兼ねてから自分も使ってみたいと思っていた。
(もちろんメイドは貸してくれなかったが)
それがいま手の内にある。
ユーリはにこにこと万年筆を眺め、それからまた自分の名前をひたすらに書いた。
「ユーリ。」
「?」
自分の名前を呼ばれた。
顔をあげれば、そこにはアーサーが戻ってきていた。
驚いた顔のユーリに、アーサーは問いかける。
「…名前で呼ばれるのは嫌か。」
「いえ…嬉しいです…」
ユーリは笑いかけた。
「っ…」
(か…可愛い…)
愛でてやりたいところだが、自分がいきなり触ったら驚いて警戒するに決まっている。
アーサーはユーリの前に歩み寄ると、頭に手をのせた。
「…!」
案の定ユーリは硬直したが、手を数回行き来させると、上目遣いにアーサーを見た。
「…アーサーさま…?」
「…続けろ。」
ユーリは慌てて視線を紙に落とし、またもくもくと字を書き始めた。
「…よくもそんなに練習をしたな。」
しばらくユーリの頭を撫でていたアーサーが、おもむろに話し始めた。
「…はい…!」
ユーリは嬉しそうに笑う。
「…俺の…名前……嬉しくて……」
「そうか…。」
アーサーはその後しばらくユーリを眺めていたが、腕の時計を見て言った。
「もう昼だ。一旦やめにして食事にする。」
「……ぇ……は…はい…」
ユーリは名残惜しそうに手元を見たが、逆らえば痛い目をみると思い、椅子から降りた。
「ほら、行くぞ。」
今度はお姫様抱っこではなく、手を繋いで歩いた。
アーサーの手はユーリよりはるかに大きく、男らしい。
ユーリは半ばアーサーの後ろに隠れるように歩き、メイド達からの痛い視線に触れないようにした。
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