アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
垣間
-
「ユーリはアーサー様が好き?」
いつものように傷薬を塗りながら、ケイはなんとなくユーリにそう尋ねてみた。
アリアの悲しそうな顔が頭から離れなかったからだ。
「……………………………………」
最近のユーリはどこかぼうっとしていて、質問にまともな答えが返ってくることはごく稀だ。
だから、今も、どこか一点を見つめているユーリを見てケイは何も言わなかった。
しかし、ユーリはまもなくして口を開く。
「アーサーさまは…すごくやさしいんです……」
「え?」
ユーリのこの場に似つかわしくない優しい声に驚いてその顔を見る。
ユーリはケイが今までに見たことのない笑顔を浮かべていて、そのままゆっくりと話し出した。
「あったかいごはんと…おふろと…おようふくと…おれは幸せなのに…おれに字を教えてくださって…あと、絵をかいて……」
ユーリは一つ一つ思い出したものをそのまま口から出すかのように指折り数えていく。
「うさぎさんとくまさんとあひるちゃんと…アーサーさまはお花のかんむりが作れるんです…それをおれに作らせてくださって…お花畑はおれのものだって……」
「……ユーリ……」
幸せそうに話すユーリに、ケイは胸が苦しくなってその手を握った。
わからない。
何が真実なのか。
ケイの手を不思議そうに見ていたユーリだったが、握り返してまた笑った。
「だいすきです」
「え?」
「アーサーさまのこと、だいすきです」
そう言って笑った顔は、次の瞬間にはまた虚ろな表情に戻っていた。
綻ぶような笑顔は嘘だったかのように影もない。
ケイは泣きたくなった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
164 / 207