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Episode85
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「家で役に立てなかった僕は、此処で役に立てた。」
そう言った目の前の男は、もう医者の顔じゃない。
不幸だと思った。
俺は、こいつに初めて揺さぶられた。
感動する話でも、ましてや綺麗な話でもない。
こんな過去を持ちながら、何故こいつは俺に優しく接せるのか。
…そう思ったから。
初めは、少し暗い表情になっただけだった。
けれど過去を言い連ねていくうちに、こいつは医者じゃなくなっていった。
苦しそうで、辛そうで、死にそうで、死にたそうな顔をする様になった。
話始めてから一度も俺と目を合わせないこいつは、気づいていない。
目線が、床を向き初めている事に。
身体が、身を庇う様になってきた事に。
俺がどんな表情をしているのかも、自分が何を言いたいのかすらきっと分からなくなっているこいつは、それでも話を止めようとしない。
分からない。理由なんて。
俺に過去を聞かれたからかもしれない。
過去を話きると決めたからかもしれない。
誰かに、過去を聞いて貰いたかったのかもしれない。
同情なんてものじゃないけど、俺は、目の前の男が哀れで可哀想に見えた。
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