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七話
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いや、しかし、とんだ間抜けもいたもんだ……。未だかぁかぁと鳴き続けるカラス、否、フロレンツを見ながら思う。普段俺が猫やらと話をしているから、自分の言葉が分かるのではないかと思って鳴いているのは分かるんだけど、まあご覧の通り分からない。つーか、あんまりにも煩くねえかお前! 思い切り耳が下がる。こちとら、人間よりも聞こえる音域が広いんだよ。煩さも段違いなの!
「フロレンツさん……? えっ、いやでもカラスだよね!?」
状況を把握できていないのは、アルフレートも同じらしい。混乱した様子でカラスと俺の顔を交互に見ているが、言葉で説明しようったってフロレンツがうるせえ! カラスに向けて小さく口封じの呪文を唱えてみたが、数秒経った後またけたたましく鳴きはじめた。カミルの野郎、予防策まで張ってやがる!
片耳に指を突っ込んで耳を塞ぎながら、荷物の中からお目当てのものを探して机の上に広げる。降霊術に使うためのボードだ。ようは、これの文字をひとつずつ指してもらい、意思疎通を図るっつう簡単なやつ。フロレンツ……らしきカラスの首を掴んで机に乗せると、コンコンと爪で机を叩く。
「いいかクソガキ、人間に戻りたいならさっさと教えろ」
声をかけると、ぴたりと鳴きやんだ。これからしなければならない事を理解したらしい。ひと文字ずつ、嘴の先で指しはじめた。
カミルさんにやられた……のは分かってんだよ。他の話だ、他の!
「結局、こいつに呪いかけたのもカミルなんだな?」
アルフレートを親指で指しながら聞くと、まーたすごい勢いで頷く。さすが鳥、動きが素早い。人間と比べりゃあ筋肉発達してるからなあ……とかどうでもいい事も考えて。
こいつに呪いを被せる事にも、手順があったはずだ。言葉、呪文だけで鳥になんかなるはずがない。まだ嘴で文字を指し続けているが……途中から気づいたので何が何やら。
「……灰と血、虫、鳥の足?」
いつの間にか横から覗き込んでいたアルフレートが、そんな事を呟いた。あー、なんだお前も見てたのか……って。
灰。となると何らかの獣のものだ。あいつが使いそうなのはネズミか猿か……血液は俺のものだとして、あいつの事だから百足でも使ったことだろう。鳥の足はそのままカラスのもの、とくれば。
「……そういう事か!」
納得した。そうか、そういう! 典型的な魔女の用いる呪いじゃねえか! つまり俺は、今まで難しく考えすぎていたって事だ!
「おいガキども、気が散るから出てけ!」
フロレンツの足を掴んで持ちながら、アルフレートの背中を強く押してドアへと向かわせる。困惑の表情でこちらを振り返ったものの、すぐに不機嫌な顔になり声を荒げた。
「おれは子供じゃないっ!」
「うるせっ! どっかで暇潰しとけよ、どうにかしてやっから!」
ドアを開けて、無理やり押し出す。フロレンツをアルフレートの頭に乗せてから、そのままドアを閉めた。
……深夜。
ドアを叩く音で、はっとする。いつの間にか机に突っ伏してうとうとしていたようだ。煙草が燃え尽きてる……が、まだ匂いが強く残っているということは、そこまで長い時間寝てたわけじゃないらしい。広げっぱなしだった書類をまとめながら、どーぞと声をかける。と、やっぱり入ってきたのは、アルフレートなわけで。
「薬草の匂いがする」
「……鼻がいいな、お前」
入って一言目がそれかよ。ま、あながち間違いでもない。人間の吸ってるものとは違うものだしな。ありゃあただの劇物だ。
「フロレンツは?」
「それが、あっという間に寝ちゃって……。しかも、おれのベッドで」
苦笑いをしながらドアを閉める。暇つぶしに飽きたのか、それとも……とか思いながら時計を見て、あ、と気付く。俺、晩飯食ってない。あちゃー……。考えた瞬間、空腹に気付いてしまった。
「客室で寝ると、断りを入れてきた。朝居なければマリウスの部屋にいる、とも言ってきたから。……ね?」
俺のほうに歩み寄りながら、そんな、あからさまな言葉をだな。わかりやすいし扱いやすいなあ、こいつ……。ま、本人には絶対言わねえけど。
「俺様、疲れてるんだけど……」
「マッサージでもしてやろうか?」
「性的な意味で?」
アルフレートがクスクス笑う。だってお前、普段は確実に揉まれる側じゃねーか。そんなのが人の体のほぐし方なんて知ってるわけねぇだろうって話だ。笑うんじゃねえっ。
でも、相手したくないのは事実なんだよなあ。出来るなら集中したいし……いや、さっきまで眠りそうになってたけど。
……そーだ。楽な方法がある。とりあえずはと手招きをして、アルフレートを側に呼び寄せた。
「後ろ向いて」
「?」
不思議そうに首を傾げながらも後ろを振り返った彼の腰を掴んで、そのまま膝の上に座らせた。びくっと肩を震わせて、アルフレートが俺の顔を覗き込んでくる。
「ま、マリウス?」
「その。……今日は、時間ねえから」
言いながら、アルフレートのズボンの前を寛げる。あーくそ、恥ずかしい。何が楽しくて人間のオスの生殖器をこう、シゴいてやらねばならんのだ。そういうことをしてもいい、とは言ったが、してやるとは言ってない。かろうじて。解釈によっては言った事になるくらいの、曖昧な契約だけど。
「……はは。突っ込まれるのかと思った」
「ガキにンなこと出来るかよ……」
もう、気分を切り替えたらしい。俺の胴体に対して少し斜めになるように座りなおすと、俺の頬を撫でてきた。顔が見れるほうが良いらしい。複雑だわ……。
すでにガチガチに勃起しているものを、ゆっくりと扱く。男っつーのは単純なもののようで……自分の好きな所は他人の好きな所なんだよなぁ……。
「ん、っ。……上手、上手……」
そんな事を言いながら、俺の頭を撫でてくる。う、うぅ。なんだそれ、ガキ扱い……。いや、いつもやってる側なんだから、文句は言えねぇか。もう、先走りでぐしょぐしょだ。男相手によくそんなに出来るな……と思うけど、そういう趣味趣向、性癖、性的嗜好なんだからしょうがないか。まあ別種の生き物に雌雄関係なく妙な興奮を覚える奴もいるし……。それよりかはまだ、納得できるし。半ば自分に言い聞かせてる形なんだけど。
「……なあ、お前ってさぁ、俺が来るまでコレ、どうしてたんだよ」
素朴な疑問だ。普段の態度からするに、仕えてる奴らは、主人の異変が体格に関するものだけだと思っているようだったし。我慢できるくらいならそもそも俺を襲ったりなんかもしなかっただろう。それを聞いたアルフレートは、今更、とでも言いたげに目を丸くした。その後、俺の耳元に唇を寄せ、少し湿り気を含んだ声で、囁く。
「……おれ好みでね。耐えきれなかった」
ぞく、と背筋に走ったのは、快感なのか、悪寒なのか、よくわからないものだった。……こ、好みだった? 俺が。アルフレートの? ……自分で聞いておいて、混乱してきた。
「ほら、手が止まってるよ」
俺の手の上に小さな手のひらを重ねて、そのまま、先を急かすように扱く。ほんっと恥ずかしいことするな、こいつ……。アルフレートの呼吸が浅く、短くなっていく。……なんでだろう。俺まで勃ってきた……。
「っ、ぅん……、っ、ふふ。ねえ、太ももに当たってるんだけど、これは何かな」
「……うるせ。さっさとイけよっ、ガキのくせに遅漏とか恥ずかしくねーのかっ!」
くすくす笑いやがって! 引き続き片手で扱きながら、先を手のひらで握るように包んで、指の腹で裏筋を責める。とろんとした顔になって、俺の肩に顔を埋めてきた。……かわいい。けど、中身は……これも何度思ったことやら。
……こいつ、俺のことが好きなのか。いやでも、人間は好きとか嫌いとか、すっごい軽率に言うし。配偶者以外ともセックスするし……とか、思考が頭をぐるぐるしはじめた。びゅくびゅくと手のひらの中に射精された事で、理性が戻ってくる。う、うわ、やっぱ意味わかんねえくらい出てんな……。
「……っ、……はは。やっぱり、体だけは若いね、おれ……」
……まだ笑ってやがる。実年齢でも、人間にしちゃあ若い方だろうが……ひねくれやがって。
ハンカチで手を拭う。あーあ、これで何匹の精子無駄にしてんのか考えた事あるのかね、こいつ。……まあそもそも、人間はそういうの気にしなさそうだけど。
「物足りないな……」
なんて言ってしなだれかかってきても、知るか。頭を押し退ける。俺は忙しいの!
「ほら、もういいだろうが。あとは一人でシコるなりなんなりして処理しろ、ったく……」
「……マリウスのお尻、借りちゃダメ?」
「ダメ」
そこで良しと言うアホはさすがにいねぇだろ。アルフレートの衣服を整えてやって、膝の上からおろす。少し唇を尖らせながら、「わかった」とか言ったが……本当にわかってんだろうな?
「……おやすみなさい。また明日ね」
「あー、はいはい。おやすみ」
彼が部屋から出て行くのを確認してから、机に向き直る。
さぁて改めて……。一仕事、はじめますか。
……とは言ったものの、翌朝。
何かが違う。ぼんやりとした、だが信頼に足る程度には確かな輪郭を持つ違和感があった。
マナの質が違う。俺の血液だと踏んで、それに対応するように組んだのだが……なんだ、この違和感は。質が高すぎるのか? フロレンツから感じる魔力と似ているのは確かなんだが。まあたぶん大丈夫だろうとは……思う。ので!
「……今世紀最高にやばいやつだっ……」
作り上げた薬は、アルフレートを震え上がらせるには十分すぎるビジュアルだった。なにせ、うごめいてるからな! ……液体が! 灰色に近いような緑色をした、例えるならカビを溶かした牛乳みたいなものが、風もないのに表面がうぞうぞと波打っている。
物言わぬ鳥であるはずのフロレンツですら、ガタガタ小刻みに震えながら机の上を後ずさっていくほどにはヤバイやつだ。
鳥の体なんだし、少量でも効くだろうと踏んでスポイトで取ると、これまたひどく暴れる。……液体が。やべえもん作っちまったかなこれ。小鍋を蓋代わりに乗せて、じり、とフロレンツに近づく。……鳥は液体を口に直接入れると、気管に入って詰まらせて死んでしまうことがある。無理強いはできないに等しい。が、こいつは……人間だ! 鳥じゃない! オーケー!!
「……覚悟ッ!」
腕を伸ばしてフロレンツの首を掴もうとした、がそりゃあ当然逃げるもんで。ばさりと派手に羽ばたいて部屋の中を飛び回りはじめた。バカ! いろんなものがぐちゃぐちゃになるだろうが!
「こんのっ……ガキッ! 逃げんじゃねえ、それでもタマついてんのかァッ!?」
今はついてないに等しいがそんなもんはどうでもいい! 意地で胴体を掴み取り、床に押さえつけた。まったく、手間かけさせやがって! 嘴の隙間にスポイトの先を突っ込んで中の液体(だと思う。動いてるけど)を流し込んだ。しばらくの間バタバタと暴れたが、そのうちぴくりとも動かなくなる。……アルフレートが覗き込んで、青ざめた。
「まっ、まさか、マリウス……こ、ころっ……」
「してねぇよっ!」
なんで疑われなきゃならんのだ! 説明しようと口を開こうとしたその瞬間、ぶわりと目の前を黒い閃光が覆った。アルフレートが小さく悲鳴をあげる。よっしゃ、どうにか……なったか?!
「……げほっ、がはッ! ……ぅええっ、なんすかこれ! なんすか!? 喉がぐちゃぐちゃになっ、…………あれ?」
聞きなれた声に、見慣れた髪の色。カラスの姿は消え、一通り咳き込んでからあたりを見回したのは、間違いなくフロレンツ……だったのだが。
「……キャー!! マリウスさんのヘンタイッ!!」
全裸だ。
いや、当たり前だよな……。鳥の時に服着せるのは一苦労だし、スケールが合わないなら着せる意味はないし。股間と胸を隠しているが、そもそも誰が見るかよ。つーか男なんだし、胸隠す意味ねえだろ。
「う、う、……うわぁ……」
あ、見る奴いたわ。アルフレートが手のひらで顔を覆って隠しながらも、指の隙間からこっそり覗いている。あー、健全な男子、いやおっさんには精神的キツいわな。むしろご褒美かもしれないけど……って、おい待て。
「お前……羽毛生えてんぞ」
「えっ、何、どこ……って痛い! 痛ぁい!!」
肩に生えた羽毛らしきものを毟り取ると、フロレンツが悲鳴をあげた。毟ったそれの感触を確かめる。間違いなく、羽毛だ。そんでもって、こいつの毛穴から生えているらしい。よくよく見れば、脛やら背中の、体の中心線から左右対称の位置に羽毛が……。
……つまり。
「ごめん。微妙に失敗してるわ」
「……は……はあぁああっ!?!!」
甲高いフロレンツの悲鳴が、部屋に響き渡った。
「……ようは、何かこう、純度的な問題があったんじゃあないかと、俺は考えるわけだ」
あれから数分後。ぎゃあぎゃあ喚くフロレンツにとりあえずで俺の服を着せ、落ち着かせてから、原因と思われる事象を説明している。あの時の違和感が原因なのは明白なんだが、それが一体何なのか……というのが主題なわけだが、もちろん、ベッドのふちに並んで座るお二方とも、この手の呪いや魔術には精通していないので何のこっちゃというところだろう。
「……で、これ……なおるんすか……」
「カミルを殴り飛ばせば確実にな!」
「乱暴だね……」
フロレンツに睨みつけられる。ご、ごめんて。本当に申し訳ないと思ってんだよ、マジマジ。
あくまで予測だが……俺の血液が問題な気がする。不純物が混ざっていたのか、それとも混ぜたのか……。
「で、お前さ、結局俺の血はパクられたわけ?」
「あー……その場で瓶を割られたっすね……」
うわー、あいつがやりそうな事だ。一般的に言う貴重品だってのに、いつでも手に入ると思ってやがるだろ。血液が古かったのか? にしては反応が違ったような。羽毛の生えた部分が痒いらしく、腕をかりかりと掻いているフロレンツを見ながら思案する。……あー。今嫌な想像しちまった。羽毛毟った後の鳥の毛穴ってブツブツしてて気持ちわりぃよな……。
「……まあ、とりあえずは何とかなったし、保留でもいいんじゃないかな。……ちょっと痒そうだけど」
しばらく黙っていると、アルフレートがそんな事を言いながら、涙目で腕を掻きむしっているフロレンツの手を掴む。さすがに傷の治療は専門外だしなんか……コワイんだけど。
「……フロレンツ、お前これからどうするよ?」
「ど、どうするって、そりゃあ、カミルさんちに荷物取りに戻って、マスターに報告して……」
「いやそりゃあ当たり前だけどよ」
なんやかんや余裕ぶちかましてやがるな、こいつ。たくましくて何よりだ。
しかし、こうなってくると八方手詰まり。つーかぶっちゃけ、めんどくさい。もう何回薬作ってんのかわからねぇし、たいした成果もあげられてない中、犯人らしき男が現れた……となれば、ミステリ小説ならば。
「殴りに行くか」
「は!?」
アルフレートとフロレンツが、同時に声を上げた。至極当然な結論だとは思わねえのか? 押してダメなら引いてみな、ってやつだ。まあ、順序が逆な気がしてならんが……。
「ほ、本気なんすか? それ、確実にカミルさん激おこ案件っすよ?! つーかマリウスさんまで俺みたいなのにされたら今度こそ……」
「ぁん? 未熟者の弟子が数年ぽっちで師を超えられるとでも思ってんのかァ?!」
「で、弟子? 弟子なの、彼!?」
「弟子なんすよ! カミルさんすっごい無茶したから今は解消済みなんすけどっ」
「……よ、よかった!」
「何がっすか!?」
混乱しきった二人が何やらぎゃあぎゃあ喚いている横で、しれっと準備を始める。つっても殴りに行くだけだから最低限の装備でいいだろ……。あいつはただ面倒くさいだけだしな。前回殴ってやったときに使ったものはもう役に立たないだろう。無駄に対策を練る奴だし。
「ま、短絡的な師を恨めって事だ。フロレンツ、お前ついてこい。アルフレートは留守番な」
「なっ、なんでっ」
言いながらアルフレートを指差すと、意外とでも言いたげな声を上げた。いや、お前……そりゃあ当たり前だろ。お前連れてくと確実にカミルの野郎が余計なことをするし。フロレンツはまだ使い道があるからな。……主に囮として。
「お前に怪我されると困るんだよ。呪いの上書きとかされたくねーなら、おとなしく待っとけ」
つまらなそうな顔をされた。……こちとらエルフだからな、こう見えて獣に違い生き物だ。顔色以上まで察せるわけで。
フロレンツが、俺とアルフレートの顔を交互に見ている。あー、お前は俺らの関係知らねえもんな。教える気もねえけど。
「言っとくけど、役立たず扱いしてるわけじゃねえからな?」
思わず、溜息が交じる。不機嫌な声色で「分かってる」とは答えたものの、俺の言うことをまともに聞くような奴じゃない。……ま、短期間でも把握できる、分かりやすい男だ。それに……。
「……自己責任で、ついていっていいかな」
意外と強情なんだよなあ、こいつ。それで困るのは俺だっつぅのに。
「……マリウスさん、別に連れてってもいいんじゃないすか? さすがにカミルさんだって、命までは奪おうとしませんって!」
いや、そりゃそうだけどよ。最初からそんなもん心配していない。あいつは殺すとか殺さないとかいう以前に、人が苦しむ姿が好きなだけだからな……。つまりは、だ。必要以上の苦痛を受けにいくこたねえだろって事だが。自己責任でと言われちゃあな……。
「……別料金で許す」
「金とるんすか!?!」
「金貨一枚っ」
「引き受けた!」
「あんたもなんで出すの!?」
投げ渡された金貨を空中で掴み取り、すぐに懐にしまう。さすが貴族、財布の紐が緩いとこほんと大好き! なんかあったときはまた追加料金取るけどな! それでもまぁ、念のため……つーことで。
「よーし、アルフレート。ちょっと手ェ出せ。お釣りでもくれてやるから」
手招きをして彼を呼び寄せ、その手の上に赤い石のついたイヤリングを乗せた。首を傾げながらも、言わんとしていることは分かったらしい。
「……お守りかな?」
「そ。俺の本業」
ま、普段なら釣り銭じゃ足りないくらいの額貰ってるけどな。指先で金具をつまみ石が揺れるのを見ていたが、しばらく眺めた後、耳につけはじめる。その横で、はっと何かに気づいたフロレンツが俺の顔を見た。
「あのー、自分はノーガード……?」
……恐る恐るといった感じに、聞いてくる。が、残念だな……ノーガードだ!
「その通りだ。頑張れ羽根つき!」
「えっ、あ、ええ!?!! そんなぁ!!」
「大丈夫だろ、悪運の強さにゃ定評あるだろ!」
そもそも、お前は荷物取ってそのまま逃げりゃいいだけだしな! 言っちゃ悪いがアルフレートも囮になるし! 使えるもんは使うけどな!
文句を言う男は無視してドアを開け、階段を降りていく。なぁに、俺様がついてるんだから死にゃあしないって。……死にはな!
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