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部屋を出て、おれはうーんと伸びをした。
座りっぱなしだとからだが凝り固まってしまう。
少し外を歩こうと、縁側に足を向けた。
ふと、ヒュッと風を切る鋭い音が聞こえて、おれは胸が高鳴る心地で縁側まで走った。
「日向(ひゅうが)!」
豪快に短槍を振るっていた男は、よく陽に焼けた顔に汗を光らせながら、ニヤリと笑った。
後ろで高く結わいた黒髪を揺らしてからだをこちらに向け、短槍の石突きを地面に突き立てた。
「殿下、よい頃合いですな。
そろそろ見えない敵との戦いに飽いてきていたところでして」
張りのある低い声に、思わず身が引き締まる。
「では、このおれが相手になろう」
言い終える前に、日向は脇に置いていた短槍をおれに向かって放り、自身の槍の穂に鞘をはめた。
「殿下直々にお相手してくださるとは、光栄の極み。
この日向、持てる力のすべてをこの槍にそそぎます」
大仰な台詞を吐きながら、目をギラギラさせて不敵に笑う。
日向のこの顔を見るたび、おれは全身がぞっと粟立つような寒気と共に、血がたぎるような興奮を覚える。
おれは日向と向かい合い、短槍を構えた。
「……いざ!」
ざ、と踏み込む音と重なり、風が唸る。
脇を突いてきた槍を足を払って躱し、横合いから垂直に割く。日向は腰を落としてやり過ごすと、下から矛先を振り上げた。
斬った勢いのままからだを捻り、大きく薙ぎはらう。飛び退いてそれを躱すと、喉から咆哮を上げて日向の槍がまっすぐに腹を突く。もしも当たったら、などということはお互い考えない。それはもちろん、鞘が付いているから、などという理由ではない。何年も剣戟を交わしてきた相手の動きは、嫌というほどからだにすりこまれているのだ。
突いてきた槍を下から弾き、つんのめったからだに膝を突き上げる。
それが綺麗にみぞおちに決まった。が、日向は痛みに顔を歪めながらも、おれの胸ぐらを掴み、思いっきり背負い投げを喰らわせると、受け身を取り損ねて全身を打つ衝撃で動けないおれと、頭と頭を向ける形で地面に倒れた。
「はあ……はあ……」
しばらくなにも言えなかった。
喘ぎながら、痛みが和らぐのを待った。
ようやく身を起こした日向が、無言でおれに手を差し伸べる。その手を取って、顔をしかめながらもなんとか立ち上がった。
「……相変わらず容赦がないな、日向は」
我ながら晴れやかな声だった。
日向も清々しいほどの笑みを満面に浮かべ、掴んだままの手に力をこめた。
「殿下の膝蹴りも中々効きました。
殿下は、どんどんお強くなられる」
「日向のおかげだ」
彼は、黒い目をまぶしそうに細めた。
「戦いに飢えたこのおれが、戦場に身を投じずとも物足りなさを感じずにいられるのは、殿下がいつも本気でおれに向かってきてくださるからだ。
こんなに骨の折りがいのある相手は、殿下以外におりますまい」
おれは思わず、照れくささに微笑した。
「そういうのは、よしてくれ。
褒められるのには慣れてない」
「殿下はもっと、うぬぼれてもよいのです。このおれのように」
おれは笑いをかみ殺しながら、日向に顔を寄せて囁いた。
「うぬぼれたら、皆きっとおれが邪魔になるぞ」
「まぁ、おれだったら叩きのめしますがね」
しらじらしく言う日向におれは思わずふきだし、つられて笑い出した日向と、ひとしきり腹を抱えて笑った。
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