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「違い……?」
「僕の当たり前と、セシルの当たり前は、違う……そうでしょ?」
きょとんと青い瞳を丸くして僕を見つめるセシルは、小さく笑って僕の手を引いた。
「レオさん、座ってください。髪、乾かしながら、話します」
そう言って、僕をベッドに腰掛けさせると、自分もベッドによじ登って僕の後ろに膝立ちになった。
「ぼくは、レオさんに拾われて始めて、こんなにふかふかなベッドで眠りました。布団なんてなくて、ぼろぼろな端切れみたいな汚い布にどうにか包まって凍えないように祈りながら1日を終えます」
僕の髪をひと房ずつ、柔らかいタオルを押し当てて水分を吸い取っていくセシルの手つきは、薄いグラスに触れるみたいに丁寧で、優しかった。
「美味しそうな匂いのする食べ物なんて殆ど食べたことなかったです。ぼくみたいな人間は、まともなお店でまともにお金を払おうとしても追い払われるから……」
髪の流れに沿ってブラシをあてて、毛先に溜まった雫をまた丁寧に拭き取る。繰り返し、丁寧に、丁寧に。
小さい頃の、母上の手を思い出す。執務で忙しい母上に強請って、無理を言って髪を乾かしてもらってり、寝かしつけてもらったりした。
「親の顔を知らない人も沢山います。……親だと思ってた人が、実は赤の他人だってことも」
思わず振り向いた。空色の瞳がおかしそうに笑う。「ぼくは、幸い違いますよ」と言った。両親と、弟がいたのだと。
「……その家族は?」
「分かりません」
分からない?
あらかた乾かし終わって、僕の隣に腰掛けると、セシルは丁寧にタオルを畳みながら言った。
「天使さまのお告げを聴いたんです」
畳み終えたタオルをブラシと一緒に脇へよけて、体を僕の方へ向けた。空の色が、僕をまっすぐ見つめる。
なんて綺麗で、強い瞳なんだろう。沢山の酷い目に遭ってきただろうに。
「天使さまが、ぼくに、ぼくくらいの歳の子たちに、聖地へ行きなさいって言ったんです。守りなさいって」
「それ、って」
八年くらい前に起きた、子供たちが一斉に失踪した事件。
「少年十字軍……」
「え?」
きょとんと首を傾げるセシルは、どう見ても十歳かそこらにしか見えなくて。
でも少年十字軍っていうのは、八年前のその当時、十歳くらいの子供たちが、聖地に向かう道中に死んだり、奴隷商人に捕まったりした事件で。
「ねぇ、セシル。君は何歳なの?」
「……十二歳、です。たぶん……」
多分?
訝しんで眉を寄せると、僕が怒ってると勘違いしてるのか、セシルは少し肩をすぼめて泣きそうな顔をした。
「……ごめんなさい。それも分からないんです。記憶が、飛び飛びで。……ぼくは××年に生まれました。今、何年ですか?」
セシルの口から出た年は、今から二十年近く前だった。
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