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後悔した夏の日7
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「わ!宍戸先輩!」
午後の講義が終わると、先輩はわざわざ教室まで迎えにきてくれた。
急にザワッとなる教室。
それはそうだろう。
1年の必須科目に3年の宍戸先輩がくるなんて凄く珍しい。
「ちょっとロッカーの荷物取ってくるんで、待ってて貰えますか?」
教室の出入り口で皆の憧れのイケメン先輩を待たせているとは…。
ちょっとだけ誇らしげな気持ちになるけど、こんな平凡人の俺なんかがと申し訳なくなるのもまた事実。
「ちょっと聖君、宍戸先輩と知り合いだったの?お願いっ!今度紹介して」
同じ講義を受けている仲間が話しかけてくる。
彼女だけではない。
先輩が俺と知り合いだとわかった瞬間、周りの空気が変わった気がした。
ざわざわと、先輩に注がれる視線。
それと見比べるように俺にも視線が向けられる。
わかってるって。
『え?何コイツ?凡人じゃね?』って感じなんだろ。
どうやら俺が思っていた以上に、宍戸先輩の人気は凄かった。
こんな僅かな時間であっても、それをヒシヒシと感じてしまう。
正直図書室での出来事があるまで、先輩のことは全くと言っていいほど知らなかったし。
図書室横取り事件以来も、正直こんな関わり方をするとも思っていなかったから。
有名だとは思ったけどそんなに意識したことはなかったのだ。
寧ろ、横取り後は避けるように逃げ回ってたし。
「ねぇ、聖君ってば!」
「ああ、ハイハイ。結奈ちゃんが俺と付き合ってくれるなら、先輩紹介するよ?」
「えーそれじゃ意味ないもん」
ぉう…冗談だったのに、なんと失礼な。
まぁその気持ち、わからなくはないけど。
「先輩とこれから何処か行くのか?」
俺の友人関係は広く浅くだ。
顔見知りは多いけど、学校終わりに誰かと出かけることは今までになかった。
理由は家でゆっくりと本が読みたかったからなんだけど。
「そ。ちっと一緒に飯行ってくるわ」
今まで彼らの誘いにのらなかったのに、どうして急にって思われても仕方がない。
俺だって止むを得ない事情を抱えたことで、こうやって先輩の厚意にどっぷりと甘えているのだ。
でも好きでこうなってしまったわけではない。
「どこでどうやったら先輩と聖君が一緒にご飯行くのよぉ」
「本当意外な組み合わせだよな」
「凸凹コンビって感じ。共通点なさそうだもん」
ぉう…人が言い返さないと思って、なんと失礼な。
まぁ、実際俺が先輩にしたことはもっと失礼だからな。
本当、無知って恐ろしい。
けれど、俺の失礼な行為を怒りもせず、寛大に許してくれて、尚且つこんなにも優しくしてくれるなんて…
先輩はまるで聖人君子か何かですかって感じだ。
これだけ男女共々、皆んなに憧れられてる理由がわかる気がする。
「ったく、今度は俺らとも飯くらい行けよな」
そう言われて頭をガシガシと荒っぽく撫でられる。
憧れの先輩と飯を食べに行く俺に嫉妬して、わざと手荒にしてるのだ。
「オッケー!わかったよ」
俺の返事はというと、いつも通りの適当な受け流しだ。
「じゃ、お前らもいい夏休みを!」
荷物を肩にかけて先輩のほうに向かう。
明日からは夏休みだ。
ストーカーは怖いけれど…今晩を乗り切ったら、明日の朝にでも両親に連絡して実家に帰ろう。
流石にストーカーも地方にある実家までは追いかけて来ないだろうし…
一夏が過ぎればストーカーの気持ちも変わるかもしれない。
「お待たせしてすみません」
廊下で待っていた先輩に駆け寄ると、何故か彼は凄く苦い顔で笑っていた。
「キミは人気者だね…」
人気者って、何を言っているんだこの人。
「先輩程じゃありませんよ」
俺は何も考えずに笑顔で返した。
どう見ても、どう考えても先輩の方が人を惹きつける力がある。
さっき俺が皆んなに囲まれたのは、先輩と俺の組み合わせが不思議だったからだ。
…けれど、この時先輩は凄く複雑そうな顔をしていた。
―――この時もっと早く、何かがおかしいと気付けていれば、これからの夏休みは大きく違っていたのかもしれない。
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