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頭が真っ白になった。
そんな筈ない。
あの人がこんな所にいる筈ない。
だって、僕の住んでる場所は、実の親だって知らない。
なのに…
「泣くな」
そう言いながら頬の涙を拭う手は、あの頃と変わらず温かくて。
暗くて顔は見えないけれど、間違えることなんてない。
忘れることなんてできない。
「ど…して…」
茫然と涙を流すことしかできない雛の頭を、優しく撫でる大きな手。
「雛が泣いてるから」
膝の上の白猫も、にゃあと彼に賛成するように鳴いた。
「らんちゃん…?」
震える声で確認すると、彼は可笑しそうに笑う。深く被った帽子を脱ぎ、膝をついて雛の手を握った彼は、確かに嵐だった。
「ん、そうだ。嵐だよ」
あんなに脱色していた金髪は、真っ黒に戻っていて、ピアスも減っている。もう雛の知る大学生じゃない、大人になった嵐がいた。だけど、雛を見つめる瞳は変わってない。
「なんで、分かったの…僕…ぼくね…、」
繋いだ手から、嵐の体温が伝わってきて、また視界が滲み出した。
会いたかった、会いたくなかった。
忘れてほしかった、忘れないでほしかった。
忘れたかった、絶対に忘れたくなかった。
もう、全部ぐちゃぐちゃで。
この手を握り返していいのかどうかも分からない。
「なんで…っ、うぅっ」
嵐は、泣きじゃくる雛を暫くじっと見つめていたが、ゆるりと雛の手を掴んで立ち上がった。
「帰ろう、ひな」
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