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3-2side嵐
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「何もないし、狭い部屋だけど…」
白猫を大切そうに抱えてドアを開けた雛に続いて、扉をくぐった。
一気に懐かしい雛の香りに包まれて、熱いものが込み上げる。
雛は確かにこの部屋で生きてきたのだ。
「ごめんね、人を呼ぶことなんて考えてなかったから…本当に何もないの…」
「んなことねーよ。…確かにちょっと殺風景だけど」
雛が申し訳なさそうにそう言うから、部屋をぐるりと見回すと、驚くほどに物が少ない。
いかにも一人暮らし、という風な1Kの間取りのこの部屋にあるのは、シンプルなベッドとローテーブル、いくつかのクッションと小さなクローゼット。あまりに生活感がない。まるでつい先日引っ越してきたばかりかのように、物が少ない。
幼い頃から雛の部屋には何度も遊びに行っていたが、こんな部屋ではなかった。
本が好きな雛は、本棚いっぱいに本を並べていたし、肌触りのいいぬいぐるみも、テレビも、ゲームもあった。
雛は、こんなに寂しい部屋で毎日過ごしてたのか…
「あんまり、ほしい家具とかなくて」
困ったように笑う雛。その表情はよく覚えている。
自分を殺して、無理して笑うところは変わっていないようだ。
ま、本人すらも気付いてないんだろうけど。
「ふーん」
適当に座ってて、と言って部屋着に着替え始めた雛。嵐があまり着ることのないスーツを脱いだ姿は、数年前よりも痩せて見える。
ちゃんと飯食ってんのかよ。
「痩せた?」
「やっぱりそう見える?」
「うん」
ぶかぶかのスウェットに着替えた雛が、マグカップを2つ持って嵐の隣に腰を下ろす。鼻腔を擽るココアの甘い香り。
雛からマグカップを受け取ると、白猫がすぐに雛の膝の上で丸くなった。どんな経緯で雛が世話をしているのか知らないが、雛によく懐いているようで、部屋に帰ってきてからもずっと彼にまとわりついていた。
その様子を見つめながら、改めて雛をじっと観察する。
大学生の頃より、髪は短い。大きくて長い睫毛、薄紅色の頬、小さな唇。変わっているようで変わってない。
よく覚えておこう。
雛の顔も、仕草も、言葉も。
今日で最後かもしれないから。
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