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「ごめん、こんなところまで来させて。疲れた?」
雛の住んでいるところから都内までは新幹線で三時間、乗り換えも合わせると片道五時間。再会した次の日には、往復分のチケットを手配して雛に送っていた。
雛にもう一度会えて分かった。
あんなに苦しんだのに、俺はやっぱり雛が好きだ。
紫藤からの連絡を受けて、雛に会いに行くか何ヶ月も悩んだ。今の雛を何も知らない。知っているのは最寄り駅だけ。都内からは遠いし、何より会いに行って雛に拒絶されるのが恐ろしかった。また雛に捨てられたら、俺はどうしたらいいんだろうって。だからあの日は賭けだった。仕事が終わったら電車に飛び乗って、雛のいる所を目指した。勿論駅までしか行けないから、会えなかったらそれまで。もう雛のことはきっぱり諦めるって。だけど、あの公園でまた会えた。正直、奇跡だったと思う。
雛はいつかの日みたいに、明るい月の下で1人で泣いていた。「もういやだ」と。その姿を見て、まだその体に大きすぎる荷物を抱えているんだと気付いた。捨てることも、逃げることもできなくて過去に雁字搦めになってる。そんな悲しみの底から、雛を救いたいって思ったんだ。
もうあの頃の俺とは違うから、今なら雛を支えられるんじゃないかって。
でも正直、今日来てくれるかどうか改札を出てくる雛を見るまで不安だった。
だけど雛は来てくれた。それも自分の意思で。
単純だけど、それだけで結構幸せかも。
「ううん、久しぶりに遠出できて楽しい」
「そっか」
ふふ、と笑いながらこちらを見上げる雛に、嵐も自然と笑顔になる。
「らんちゃんこそ、お仕事大丈夫なの?」
「うん。ドラマ終わったばっかりだし、今は割と暇な時期」
「そっかぁ」
嘘。本当はどうしても1ヶ月間は土日をオフにして欲しいってお願いしてマネージャーに怒られた。CMも雑誌も番宣も、仕事は山ほどある。
それでも嵐は、雛に世界を見せたかった。
「雛ってこの辺初めて?」
物珍しそうに辺りを眺めていた雛が頷く。
「じゃあ俺が案内してあげる」
雛の手を引き、嵐は街中へと歩き出した。
幸せになりたくないなんて言わないで。
俺の全部をあげるから、どうか幸せになって。
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