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結局雛は心の中に理解できない感情を抱えたまま、嵐と連れ立って店を出た。少し冷たくなってきた風が、何故か火照っている頬に優しく触れて気持ちいい。
まだクリスマスは1ヶ月以上も先だと言うのに、この街はそこかしこが宝石のような光で輝いている。
その光を追いかけるように駅に向かって歩いていると、嵐が口を開いた。
「逆に雛はさ、何で今日来たの?」
「え?」
「あんな遠くに行くくらい、離れたかったんだろ?」
視線だけで雛を見下ろす嵐の顔には、何も表情が浮かんでいない。
「…何でって…それは、」
「俺さ、期待してもいい、の…?」
『期待』。
その質問の意味が分からないほど、鈍感ではない。
大学時代に、嵐が自分を好きだと言ったあのシーンは今でも鮮明に思い出せる。大切な人を待ち続けて心も体もボロボロの雛に、嵐はどんな思いで告白したんだろう。それまで何も知らずに過ごしてきた自分は何て浅はかな人間なんだろう。そんな風に自分を呪ったことも、全て覚えている。
ううん…本当は気付いてたのかも。らんちゃんの気持ちに。その上で見えないふりしてたんだから、もっと醜くて最低な人間だよね。
だめだ…何か、答えなきゃいけないのに。
きゅうっと唇を噛んで俯くと、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
「…嘘。そんな困るなって」
こちらを覗き込み、申し訳なさそうに笑う嵐。
上手い返事が見つからなかった。小さく頷くだけ。
そんな様子の雛を見て、嵐はまた苦笑する。
何で嵐に呼ばれて来たのか、自分でも上手く説明出来ない。
なんでだろう?
今日が楽しみだった。
嵐から連絡があって、新幹線のチケットが届いた時は、嬉しくて嬉しくて、無くさないように引き出しの奥に大切にしまった。
週末が近付いてくるほどに、嵐の笑顔を思い出して胸が高鳴った。
やっぱり、らんちゃんは大事な幼馴染みだから…?
そうだよね、きっと。
今日少しだけ心臓が早く動いてる気がするのも、きっと。
雛は自分にそう言い聞かせて、頭の隅に過ぎった微かな淡い想いに蓋をした。
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