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トークショーはあっという間に終盤を迎えた。
抽選で当たったらしい女の子が涙を流しながらステージに上がって行って、困ったように笑う坂井藍が柔らかそうな頬を優しく拭っている。
その光景に、ズシンと重くなる雛の心。
「あんな、企画もあるんだ…。」
あの手が涙を拭ってくれるのは、自分だけの特権だと思っていた自分が恥ずかしい。
幸運な女の子は嵐とツーショットを撮り、また嬉しそうに涙を流していた。周囲からは「羨ましい」と悲鳴にも似た高い声が聞こえてくる。嵐が動く度に、しゃべる度に、表情を変える度に起こる歓声。
キラキラ光ってて、眩しいなあ。
手を伸ばしたって届かないその距離に、思わず乾いた笑いが漏れた。
馬鹿みたい。
らんちゃんはもう違う世界にいて、ただの情けで昔馴染みの僕に会いに来ただけだったんだ。優しい人だから、突然消えた僕を放っておけなくて。
会っていなかった距離をたったあの一ヶ月で埋めるなんて土台無理な話だったのだ。なのに昔の二人に戻ったみたいな錯覚に陥ってしまった。
僕は立ち止まったままで、らんちゃんは強く前に進んでいて。きっと最後に、みっともなく塞ぎこんだままの僕に光を見せてくれたんだ。
やっぱりらんちゃんは最後まで優しかったんだね。
こんなところまで追いかけて来てしまったけれど、あんな姿を見せられて尚本人に詰め寄れるほど厚かましくない。
「なんか、逆にスッキリしちゃった。」
あんなに輝いている人に未練がましく想いだけでも伝えようなんてやっぱり辞めよう。
らんちゃんの言うとおり幼馴染のままで。
きっと貴方も同じ気持ちなんでしょう?
パンフレットが入って少し重くなったカバンを肩に引っ掻けて、イベントの終了時刻には少し早いが席を立った。
まだそんなに混んでないから電車もすぐに乗れそう、なんて考えながら賑やかな会場を出る。少し冷たい風が頬を撫でていくのが心地好い。
目標を達成することはできなかったが、不思議と心は穏やかだ。
らんちゃんが手を差し伸べてくれた優しくて温かい1ヶ月。
僕は絶対に、死ぬまで忘れない。
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