アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4-4
-
「俺今日バイトだから」
2人で朝食を終え、キッチンで雛が食器を洗っていると後ろから声がかかった。
雛はその声に振り返り、両手に泡をつけたまま首を傾げる。
「バイト…なんて、してたっけ…?」
「うん、最近始めた」
嵐とはほぼ毎日顔を合わせていた筈なのに、アルバイトを始めたなんてことは知らなかった。
僕のことは何だって聞くくせに、自分のことは何にも話してくれないんだもん...
自分の知らない嵐の一面があることに何故か胸がざわりと騒いだ。それを誤魔化すように、雛は嵐に背を向けて皿洗いを再開する。
「そうだったんだ…すぐ行くの?」
「行くよ」
「そっか…気を付けてね」
「ん。雛の家にも連絡しといたから。予定がないんだったらちゃんとここで留守番してろよ?勝手に出歩いたら説教だから」
その言葉にムッとした雛は、振り返って嵐を睨んだ。
「わかってるっ。僕子どもじゃないんだよ!」
「さっきまでぴーぴー泣いてたくせに」
「...ばか!」
雛を揶揄って笑う嵐に、雛はもう一度背を向ける。
らんちゃんのばかばか...っ!僕だって泣き虫だけど留守番くらいできる!
嵐はぷりぷりと怒る雛を見つめ、喉の奥でくつりと笑ってからその背中に近づいた。
「雛」
幼馴染が近くまで来ていることに全く気付いていなかった雛は、耳元で聞こえたその声に肩を跳ねさせる。
少しでも顔を動かせば肌が触れ合ってしまう程近い距離。嵐の少し傷んだ金髪が頬に当たって少しくすぐったい。
嵐は先程揶揄っていた時とはまるで違う、真剣な瞳でこちらを見つめている。
「...っ、なに?」
「お前本当にこの家から出るなよ。約束して」
「わ、かってるってば」
「寂しくなったら連絡してもいい」
「またそうやって子ども扱いする...」
「そうじゃなくて、雛が心配なだけ」
そう言った嵐の腕が、雛の細い腰に回る。
只でさえ近かった嵐の体温が更に密着して、心臓がどきりと高鳴った。
咄嗟に身を捩って逃げ出そうとするが、嵐の逞しい腕がそれを許さない。逃げられない状況に焦る雛に、さらに追い打ちをかけるように嵐が囁く。
「あと、俺を頼ってほしいっていう下心?」
耳に吹き込まれた吐息混じりの低い声は冗談には聞こえない。
「なぁ雛、俺を見ろよ...」
その縋るような弱弱しい声を聞いて、雛は理由もなく泣きたくなった。
らんちゃんがこんなに想ってくれているのに、どうして僕は大介さんじゃなきゃだめなんだろう。
どうして恋は、こんなに哀しいんだろう。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
33 / 85