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君を望んでもいいのなら
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「引退宣言します」
数日前のことなのに自分が記者や多くの人の前で発言した言葉が頭から離れない。
ーー事の原因は靭帯の損傷と精神事情。
今でもバスケットボールはしたいと思える、けれどプロの選手として活躍し続けなくたって怪我から完全に復帰すればまたできる。そう思って出た結論が今回の引退宣言。
『大丈夫、また復帰したら良いじゃん』『怪我が治るまで活動を休止すれば良い』『引退なんて決断が早すぎる』周りの友人やチームの仲間の言葉を押しきってまで決めたことを曲げるつもりなんてないが、ひとつだけ心残りがあるとすれば決断する前に相談した方が良かった人物になに一つ言葉もなしに姿を消したこと。
頭の中ではそんなことがぐるぐると渦巻いていた。
「火神さん、火神大我さーん」
そんな渦の間を割って入ってくるかの様に看護婦さんの声が聞こえてきた。
そう、今現在アメリカを後にし産まれた場所でもある日本に戻ってきていた。
で、今は地元の市民病院で検査待ちをしていた。
「はい、今行きま‥‥痛ーーッ‼︎」
どうやら症状は悪化してきているみたいで膝の周りの腫れも治らず今みたいに座った状態から立ち上がろうとすれば激痛が膝から感じる。
思わずふら、とよろけてしまい痛みで一瞬目を瞑ってしまった所為かどんっ、と何かにぶつかってしまった。
「‥‥‥大丈夫か?」
「あー‥‥すいません、ぶつかっ‥‥」
どうやら人にぶつかった様だったが謝罪と一緒にその人物に視線を向ければこんな処で出会うとは思っていなかった人物が視界に入った。
「‥‥‥緑間?」
「‥‥火神」
「ははっ、偶然過ぎるだろっ」
思わず笑ってしまった。
どうやら緑間も凄く驚いたのか片手に持っていた物を落としたみたいで慌ててそれを拾いあげていた。
「そのぬいぐるみって‥アレか?」
「‥‥‥ラッキーアイテムなのだよ。」
「やっぱり緑間って感じだな」
「どういう意味なのだよそれは」
聞き捨てならないなと俺の言葉にそうやってむすっとしている緑間。
すると先程俺を呼んでいた看護婦さんが躊躇いがちに「あの~」と申し訳なさそうに呼びかけてきたので「あ、すぐ行きます」と膝の痛みを忘れない様に診察室に入ろうとすれば緑間が俺の腕を掴んだ。
「火神‥あとで迎えに来るからロビーで待っているのだよ」
「へ、まぢで?」
「まぢなのだよ」
ーー驚いた。
高校時代の時は顔を合わせれば言い合いになっていたのにあれから七年近くも経てば人は変わるんだな、なんて。
もしかしたら変わったのは逆に自分自身かもしれないなと思いつつ診察室に足を運んだ。
「ーーで何故お前が日本に居るのだよ」
「緑間ってテレビ見ねぇのか?」
「たまには見るが最近は入院患者につきっきりで全く見ていない」
さっき会った時はつい驚きで気付かなかったが白衣をまとった格好はどっからどう見ても医者だった。
「しかも小児科の担当医ってまぢで想像できねぇーよ」
「おい火神、話を逸らすな」
はははっと笑っていればそんな俺に機嫌を損ねたのか低い声で問いかけてくる。
「確かアメリカに居たんじゃーー」
「帰ってきた」
「‥は?‥何を言って‥」
「だから引退したんだって」
あまり追求されたくないと思っている俺に気付いたのか『引退した』と口にしてからもうそれ以上は何もそのことに関しては聞いて来なかった。
それからロビーで数分会話すれば「もう戻るのだよ」と緑間は呆気なく勤務に戻っていってしまった。
案外緑間って人に気をつかえる人間だったんだなと思えば高校時代、変人だと思っていたのがなんだか撤回したくなった。
「あ、連絡先聞いてねぇ‥‥いやでもこの病院に来たらまた会えるか」
緑間の連絡先なんて今も昔も知らなかったがさっきの再会でなんだか聞いていた方が良かったかもしれないと思った。
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