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招かれざる敵(龍之介side)
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「何ボーッとしてんの?」
「……?」
「さっきから、延々ソレ解体しては組み立てんの繰り返してるけど、いい加減見てるのも疲れるから、ヤメてくんない?」
いささかトゲトゲしいコメントをするマコトの隣で、パソコンと向き合っていたハルトもコクコクと心配そうに頷いている。
手の中の愛用のサブマシンガンを見下ろして、苦笑した。
「……悪ィ。ちょい好きな奴イジメ過ぎて、ヘコんでた」
言えば壊れるとわかっていて、告げた。
間違ったことを言ったつもりはない。
だが、思いのほか展開が早過ぎた。
士郎を徐々に自分に振り向かせ、克己と達也の仲も取り持ちながら、もう少し緩やかに事を進めるつもりだったのだが、あの後すぐに二人は別れを選んだという。
互いに限界が来ていたと言えばそれまでだが、自分の状況も安定しているとは言えない今、狼だらけの桜華で克己が一人でやっていけるのかも心配なら、士郎が学園を去ると言い出したことも気にかかる。
克己には自信たっぷりに、自分が士郎を引き留めて見せると宣言したものの、今の時点で100パーセント士郎を振り向かせる自信があるかと言えば、否だった。
いつだって望むように振る舞い、その結果がどんなものでも、甘んじて受け入れてきた。
結局は、なるようにしかならない。
わかっているのに、士郎を失うかも知れないと思うと、平静ではいられなかった。
何か方法を考えなくてはと気が焦る。
最悪の場合、外に出た士郎に網を張り、絡め取る必要も出てくるだろう。
情報担当のハルトを抱き込むのが一番手っ取り早いのはいえ絶対反対されるだろうから、リンに連絡を取って士郎の詳細なバックグラウンドを洗わせるべきか?
思考の海に沈んでいると、トントンと肩をたたかれた。
「……ン?」
見ればハルトが横に立っていた。
目を完全に覆う長い前髪の向こうで目を泳がせ、視線を左右にそらしながら、口を開いたり閉じたりしている。
「あー……、落ち着け。な?」
とりあえず、こういう時は待つに限る。
ルイのようにガミガミと急かすと、ハルトは途端に貝になる。
「う、うん……」
間も長ければ声も小さいから、聞き逃さないようにと神経も使う。
ルイじゃねェけど、こりゃ疲れるよな、と内心でため息をつく。
それでもハルトが自ら話しかけてくるのは緊急の話題に限るとわかっていたから、なだめ微笑んでやりながら、忍耐強く待った。
やがて、永遠のような沈黙の後、
「刺客が……来る」
ピクリと頬が震えた。
一気に部屋の空気が張り詰めた。
緊急モードに切り替わった脳内から、一瞬にして士郎や克己の情報が消え去った。
「組織からか?」
ガタンと音を立てて立ち上がり、マシンガンを棚に戻して、ハルトのパソコンをのぞき込む。
「う、うん……」
「他に情報は?」
「潜入……子供……」
要約すれば、こうだ。
学園内に生徒を装った刺客が放たれた。
「ターゲットは?」
ハルトが悲しそうにこちらを指差した。
それでとりあえずはホッとした。
最悪、命を取られるだけだ。
自分以外を組織がターゲットにするはずはないと思いながらも、仲間に刃を向けてくる可能性も否定しきれなくて、毎回どうしたって肝が冷える。
「目的は?」
「リーダー……争い……?」
「てか、まだ受けたつもりもねェんだけどなァ」
組織内の利権争いで外にまで迷惑かけるなと言いたかった。
アイツは何やってるんだと、もう10年以上も顔を合わせていない育ての親を思う。
たった6年、共に過ごしただけだ。
朝から晩まで、それこそ世界中を巡りながら、生きるためのあらゆる手段を叩き込まれた。
溢れるほどの愛情を注がれ、人とは違う生き方でも幸せだと思った。
何の疑いもなく、幼心に信じていた。
永遠に共に行けるのだと。
「……リュー?」
ハルトの声に、ハッとした。
頭を乱暴に振って、切り替えた。
「情報、サンキュ。よくやった」
絹糸のように艶のある黒髪をくしゃくしゃにして撫でてやると、嬉しそうな顔ではにかんだ。
「何とかすっから、心配すンな」
「オレ……手伝う、よ」
「おう。もしもン時は、頼む」
納得したのか、ハルトが頬を上気させて席に戻っていく。
見れば、会長席は不在だった。
ハルトもユージンがいない時を選んで声をかけてきたのだろう。
そういう気遣いはできるヤツだ。
普段なら、緊急事態ほど燃えるタチだが、今回は少しばかり間が悪かった。
得体の知れないユージンを内に抱え、士郎に入れあげているせいで仲間内もバランスを欠き、おまけに士郎と克己のこともある。
さて、どこから手をつけるべきか。
とりあえずは泳いで頭を冷やそうと、役員専用のプールに向かった。
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