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濃密な甘い闇に絡め取られて(士郎side)
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風呂から上がると無言で自分の身体をざっと拭き、新しいタオルで龍之介の身体を包んだ。
わしゃわしゃと髪の雫を拭い、くまなく全身を拭いてやる。
何かが吹っ切れたかのように、いつにも増して甲斐甲斐しく世話を焼く自分に、龍之介が戸惑うような視線を向けてくるのがおかしかった。
いつも高いところから余裕で世の中を見つめ、あくびをしているような男が不意に見せた弱さは、なぜだか自分をひどく安心させた。
自ら手を伸ばしておきながら、いざ願いが叶うと途方に暮れたような顔をする。
強引にいくのは得意なくせに、攻められると戸惑うその落差がおかしくて、笑ってしまった。
この後、自分の身に起こることを考えると、さすがに指先が冷たくなるような震えがきたが、ようやく克己のためにできることを見つけられたことで心はひどく穏やかだった。
傷つけることしかできなかった。
ずっと心に引っかかっていたしこりがゆるやかに溶けていく。
自己満足だとわかっていても、これでようやく本当の意味で克己の手を離せる気がした。
ふと見上げれば、瞳の奥に傷をたたえた狼がいた。
いつもの自信はなりを潜め、悲壮感すら漂わせて、自分が欲しいのだと語っている。
なぜ自分なのかと不思議だった。
ずっと単にからかわれているのかと思ってきたが、この男はこの男なりに本気なのだと感じたら、その必死さが憐れで、ほんの少しだけ愛しく思えた。
ずぶ濡れの犬に抱くような感情だ。
昔から自分は大型犬に弱い。
実家で飼っている愛犬に大きな身体を丸めてクン……と鼻を鳴らされると、それこそ何でもしてやりたくなったものだ。
「……なァ、あんま甲斐甲斐しく世話されっと、居心地悪ィ」
椅子に座らせて髪を乾かしてやると、ついに我慢できないと言いたげに龍之介がボヤいた。
「オマエまさか、オレを抱くつもりじゃねェよな……?」
ポカンとした後、今度こそ腹を抱えて笑ってしまった。
自分が龍之介を抱くなど、それこそホラーだ。
いや、自分が龍之介に抱かれるのも絵的にないが、このたくましい色気の塊のような男が誰かに抱かれている姿を想像するのは難しい。
「……だったら、どうする?」
「……てかオマエ、オレで勃つわけ?」
基本的には勃たない。
惚れた相手以外とは肌を重ねたくないと思うタチだが、あの濡れた声で煽られたら正直わからないと思った。
やってやれないことはないような……、そこまで考えて、自分の思考に心底げんなりとした。
「……ないな」
「だよなァ。オマエはやっぱオレの下で喘いでる方がお似合いだ」
その声に肌が泡立つのを感じながらも、ニヤリとしたり顔で笑われれば腹が立つ。
覚えてろと鏡越しに睨みつければ、少しアゴを上げた、いつもの人を食ったような龍之介に戻っていた。
先ほどまでのかわいげはどこにいったんだと呆れたが、こっちの方がしっくりくることもまた確かで。
髪をおおかた乾かし終えたところで、右手で腕をつかまれた。
「……もういい」
「髪を乾かしたら行くから、先に行ってろ」
「待てねェ」
束の間、見つめ合ったが、
「……しかたのないヤツだ」
結局、折れた。
言い合ったところで、最終的には強引に奪われるに違いない。
費用対効果を考えれば、引いた方が賢かった。
「ンな短ェ髪、ヤッてるうちに乾くだろ」
次第に、声に底なしの深みと艶が滲み始める。
あきらめてドライヤーを置いた。
手を引かれ、ベッドとの距離が縮まるにつれて増していく息苦しさに、乱れる呼吸を何とか整えようと必死になる。
けれど、強引に自分を導いてゆく龍之介の手の平もまた熱を孕み、汗ばんでいるのに気づき、驚くのとともにほんの少しだけ肩の力が抜けた。
龍之介はベッドの前で足を止めると、こちらの胸をトン、と押して、ベッドの淵に座らせた。
こちらの脚の間に片膝を乗せ、右手を肩に回してグッと身体を進めてくる。
自然に押し倒され、身体がスプリングの上で跳ねた。
欲情した黒曜石の瞳がバルコニー越しに降り注ぐ月明かりに濡れていた。
本当にこの男と身体をつなげるのだと意識した瞬間、ドクドクと全身の血が騒ぎ始め、逃げ出したい衝動にかられた。
気づいた龍之介に、今さら逃がすかと言いたげに、グッと肩を押さえつけられる。
「……覚悟、決めたンだろ?」
欲情してかすれた声に、ゾクリと恐怖とは別の感覚が入り混じる。
どうしても、この声には勝てる気がしない。
永遠に聞いていたいと、本能が理性を凌駕する。
まるで濃密な甘い闇にゆっくりと浸されていくかのようだ。
身動きが取れないほどに絡め取られたその先に何があるのかと、一抹の不安にかられながらも、今はただ克己のためにできることはすべてしてやろうと、自らゆっくり目を閉じた。
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