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音の波に揺らされて(士郎side)
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月明かりのもとで寄せては返す波のような、静かで情熱的な旋律の中で、目が覚めた。
ベートーベンの月光。
意識が浮上してからもしばらくの間、目を閉じて美しい音の波に揺られていた。
奥行きのある音色が、胸に染み入るように深い場所にまで届く。
やがて音が止み、辺りを静寂が支配した。
「……起きてンだろ?」
不意に声をかけられ、ステージの上で横向きに横たわったまま、ビクリと身体を震わせた。
未だ感情の整理がつかなかった。
ずっと会いたかった音色であり、相手だった。
この音色を、何度聴きたいと願ったか知れない……。
だが、龍之介と記憶の中の少年がどうしても同じ像を結ばない。
「……カラダは?」
「……っ、平気そうに見えるか……?」
睨みつけた視線の先で、組んだ腕をピアノの譜面台に置いたまま、龍之介が苦笑した。
「……あンだけヤって平気だったら、逆にバケモンだろ」
おまえが言うなと思ったが、化け物と言ったところで褒められていると取るだけの男もはや何も言う気になれず、口をつぐんだ。
「……どれくらい落ちてた?」
「ほんの数分だ。 ……てか、起きねェ方がいいンじゃね? ナカ、まだそのまんまだから、溢れてくンぞ」
半身を起こした途端にドロリと溢れてきた白濁に、眉を寄せた。
「……っ」
白濁は腰の下に敷かれたダークブラウンの厚地のサテンの布にこぼれ、やけに目立つ小さな溜まりを作る。
白シャツなら目立たないものをと、くだらないことを考えている自分に、心底げんなりした。
「ははっ、やっぱ体力あンなァ。……それとも少しは、慣れてきたか?」
抱かれることにか?
「……ふざけるなっ」
くくっ、と龍之介が笑う。
「そのカッコで凄んでも、誘ってるようにしか見えねェし」
「貴様、覚えてろよ……っ」
サテンの布をクシャリと手でつかみ、腰を隠したが、情けなさに拍車をかけるだけのような気がして、ため息を殺した。
「シャワー室は奥だ」
クイッ、とアゴでステージの後方をしゃくられ、シャツ一枚を羽織った姿で立ち上がる。
腰に走った鈍い痛みに、膝をつきかけて、何とかこらえた。
やはり、一度目よりも格段にダメージが少ない。
「……ごゆっくり?」
ニヤニヤ見送る龍之介は、まるで獲物を堪能した後の肉食獣のように悠然としている。
情けなさの極致にある自分とのこの落差は何なんだと、怒りに震えた。
龍之介に消えない傷を残すつもりが、蓋を開けて見れば、単にさんざん喘がされ、気絶するまで抱かれたに過ぎないとは。
克己を望まない形で抱いていただけの自分と、百戦錬磨の龍之介では、そもそも場数もテクニックも雲泥の差だ。
ことセックスに関する限り、到底勝てる気がしなかった。
おまけに、あの声と、このピアノの腕前だ。
再び流れ始めた旋律に、思わず足が止まる。
ピアノを弾き始めた龍之介は、すでに自分の存在を完全に消し去っているように見えた。
普段は広く拡散している意識を、音に一点投下させるかのような。
研ぎ澄まされた神聖な空気感が、龍之介を包んでいる。
高い天井から差し込むほの淡い光に照らされた、鍵盤の上を滑らかに滑る指先が、肌の上を滑っていた残像と重なり、思わず強く首を振ると、深いため息に暮れた。
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