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音に溶けて消えていく(龍之介side)
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これ以上焦らされたら気が狂うと、肩に噛みつかれて、苦笑した。
もう少し、この切なさにも似た甘い時間を味わっていたい気もしたが、熱く絡みつく中に煽られて、こちらも限界が近かった。
ベッドのスプリングを利用して、下から緩く突き上げてやる。
この程度の刺激でも、今の士郎には充分なはずだ。
激しくするよりも、たぶん感じる。
「…っ…ぁ…っ、は…ぁ…っん…っ」
「……なァ、オマエを抱いてるのは、誰だ?」
しだいに仰け反っていく綺麗な身体に、問うた。
「あ…っ、りゅ…、う……っ」
「ん……?」
「りゅ…っ…の…す…け…っ」
「……そうだ。もっと、呼んでみ……?」
そうすれば、今よりもっとよくなれる、と暗示のように甘くささやいた。
とろけるような快感と自分の名前を結びつけて、深く記憶に刻めばいい。
そうすれば誰と抱き合っても、快感を得るたびにこの夜の記憶と繋がるはずだ。
らしくもなく悲観的なことを考えた自分を、笑った。
誰にもやりたくないのなら、永遠に繋いでおけばいい。
その瞬間がピークで、やがては緩やかに朽ち果てていくとしても、物理的に繋ぎ留めることは可能だろう。
だが真に欲しいのは、手を伸ばしてつかみ取れるようなそんな形ある何かではなかった。
離れている間に士郎が誰と寝ようが、心揺らされようがかまわない。
命果てるその時に思い出すのが自分であれば、それでいい……。
自分が思い出すのはきっと、この男に違いないと確信しながら、キツく目を閉じて、士郎の最奥で果てた。
「……っ」
白濁を受け止めた士郎が、束の間、意識を失い、崩れ落ちてくる。
激しくはしていないはずだったが、緊張の糸が切れたのだろう。
達する瞬間でさえ、花びらを散らす桜のような哀しげな可憐さが、胸を打つ。
このまま抱きしめていたら永遠に手放せなくなりそうで、未だ収まらない熱をなだめ、繋がりを解いた。
ベッドに士郎を横たえ、シーツで包んだ。
起き上がり、簡単に服を整え、部屋の片隅に置かれたピアノに向かう。
心が乱れるといつも、音の中にすべてを吐き出してきた。
左手に負担をかけないよう、弾ける曲は限られていたが、もとより今弾きたい曲は一つしかない。
ベートーベンの月光。
静かで情熱的な音色。
狂気と儚さを同時に秘めた夜想曲は自分にとって、もはや士郎そのものとなりつつあった。
囚われていふのは間違いなく自分の方だ……。
束の間、音に溶けては消えていく、狂おしいほど甘くて苦い感情の揺れに酔った。
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