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覚悟(士郎)
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遠くで、美しく哀しげな旋律が鳴り響いていた。
ゆっくりと意識が浮上する。
目覚めている感覚はあるのに、身体が動かなかった。
ひどく怠く、それでいてスッキリと身体が軽かった。
一人で何度も……最後には抱かれて達したことを思い出す。
……落ちたのか。
前の二回と比べれば、身体の負担は格段に軽かった。
少し揺さぶられただけで、身体はみるみるうちに甘く溶けた。
欲しくて欲しくて気が狂いそうだった熱を与えられ、満足の中で、浅ましく腰を揺らしたことを覚えている。
ここまで来てしまったことを、後悔はしていない。
ただ少しだけ……、向かうべき未来を見失ったような、心細い思いにかられた。
やがて音が鳴り止み、カタン、と蓋の閉じられる音がした。
龍之介の気配が近づいてくる。
未だ身体は動かなかったが、意識ははっきりしていた。
短い前髪をかきわけて、硬い手の平が額に触れた。
指先が惜しむように頬をたどり、足音が遠ざかっていく。
行くなと言いたかったが、声が出なかった。
用事があるだけかもしれない。
けれど、このまま戦地に赴くのだとしたら……?
何一つ約束などしていない。
別れの挨拶さえせずに、おまえは行くのか……?
龍之介らしいと思う反面、胸が潰れそうに痛んだ。
危険を察知した時ほど、この男はきっと何も言わない。
今回無事に帰ってこられたとしても、この先、何度もこの痛みに襲われるのかと思ったら、冷静でいられる自信がなかった。
それでも待つと決めたのだ。
泣いてすがることだけはするまいと、改めて心に誓う。
この痛みに負けた時が別れの時だとわかっていた。
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