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困った弟へ拳を
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「で、なんであんな所にいたの?」
聞かれないはずはいよなー、でもこのままなかったことにして聞かれないかなーとか考えていた真白は心中で、大きな溜息を吐いた。そして、このなんとも言葉にしがたい気持ちを話す術をしらなかった。だが、理由を話さなければこの上司は納得しないだろう。なんとなくでは流してくれそうにない。でもこんな個人的な感情を話しても迷惑じゃないだろうか・・・
佐伯は大きめの黒目を左上にキョロリと向け逡巡している真白を楽しそうに眺める。自分が泣いていたことなど気付かないぐらいの情緒未発達な真白は自分の気持ちを伝えるのが難しいのだろう。
「最中は素直にいろいろ教えてくれたのな。今はだんまり?」
「な・・・!!」
佐伯の一言に打ちのめされ真白は顔も耳も真っ赤になり、羞恥心に負け両手で顔を覆う。なんであんな恥ずかしい事が出来ちゃったのだろう・・・ホントに恥ずかしい・・・しかもその相手が自分の職場の上司だという。冷静に考えれば考える程消えてなくなりたい気持ちになる。でもそれは叶わないので、無理矢理話題を先程の話に戻してみた。
「・・・えっとですね・・・弟が俺の家にたぶん来てます。」
「うん?」
「俺、就職活動中に実家から出て一人暮らし始めたんですけど・・・弟が理由つけては泊まりに来るんですよ。たまになら俺も文句はないんですが、最近だと週三とか普通になってきちゃって・・・。いや、別にいいんですけど・・・」
語尾にいくにつれ、真白の声は小さくなんとも歯切れが悪い。そんな態度を見ると、弟が家に訪ねてくることに真白はあまり良くは思っていないのは明らかなのだが・・・気付かないのか、気付かないフリをしているのか。
「? ・・・それは良くないって思ってるんだろ? 別に良くないって思ってるから、あんな所で時間潰してるんだろ。弟にはっきり言えばいい。もう来るなって」
「え! 来るなって言っちゃっていいんでしょうか?」
「? 何が問題な訳? 兄弟が喧嘩したって普通だろ? それにこんな事で喧嘩になるのも変だし。」
真白は顎に右手を添え、うーんと考える。正直自分は弟達と喧嘩をしたことがないと思う。そもそも喧嘩ってどうやるんだろうか?記憶の糸を一生懸命手繰り寄せるが、どうにも弟達と喧嘩をした思い出は浮かばなかった。弟も妹も甘えて我儘を言っては来るが、自分が我慢できないほどの事をされた事がない。俺って沸点が引くいのか?と思い始めた。真白はしばらくぐるぐる考え、やっと答えを出した。
「・・・喧嘩・・・したことがないです・・・」
「は? 一度も?」
「・・・はい。記憶にあるかぎりはないですね」
佐伯はその言葉を聞いて眉をひそめた。それはある意味異常だ、そう思った。兄弟なんてしょっちゅう喧嘩するもんだ。佐伯には上に三人の兄姉がいる。親族経営の会社なので佐伯にとっては上司でもある。もう年齢もそれぞれ取り大きな喧嘩はないが、それでも未だに言い合いになる時も間々ある。子どもの頃、さすがに姉とは殴りあわないが口喧嘩ぐらいは日常茶飯事だった。だが兄達とは殴り合いに発展する事だってしばしばだ。男同士なら殴り合いだってある。佐伯は小さく溜息を付き、真白に微笑みかけた。
「・・・じゃあ弟が今日来てたら、ちゃんともう来るなって伝えろ。それでも来たら、一発ぶん殴ってやれよ」
「・・・は?いや・・・はっきりは伝えますけど暴力はちょっと・・・」
「兄弟なんだから遠慮はいらないだろ?」
「・・・え・・・でも殴られたら痛いでしょう?」
「なに? お前が殴られるの前提なの?」
「・・・弟、俺より10センチも背が大きいんですよ・・・」
佐伯は真白のなんとも情けないしょんぼりとし困ったような表情を見て、優しく微笑む。
なんとまあ・・・と、少しだけ真白を不憫に思いながらも佐伯は喧嘩の極意を説く。体格差は喧嘩において確かに重要かもしれないが、もっと重要な事がある。
「・・・そうか。でもな、喧嘩は気合だよ」
「気合・・・ですか・・・?」
「まあ、その前にしっかり話をすることだ。重要な話をするから、しっかり聞くようにってっちゃんと話をする雰囲気を作る。大事な話はなあなあにするもんじゃない。いいね?」
「はい、わかりました」
真白は困ったような顔をしつつも、なんだかすっきした顔で小さく笑い佐伯に頷いた。自分より背の高い、そしてテンションも妙に高い弟に自分が喧嘩を吹っ掛けて勝てるんだろうか?そもそも他人とも喧嘩したことがない真白には、喧嘩の極意なんてよくわからない。でも佐伯の言ってくれたことは、正しいと思う。兄弟だからこそ、言うことはちゃんと言わなければいけないだろう。殴り合いは置いておいて、ちゃんと話をするのは大事なことだと真白は納得した。そして、佐伯本部長はホントにすごい人だな~と改めてその人の顔を見つめ、先程の情事を思い出しそうになりまた俯いてしまった。
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