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お目付役
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「今日の最高気温……40度とか…死ぬ…」
朝、直行で真夏の現地調査から共に会社に戻ってきた真白に同期の山村が声も絶え絶えに呟いた。今日は同僚の山村と先輩二名、真白、保安部三名での調査だったが確かに今日の暑さは尋常ではなかった。立ち入り禁止区域に現地調査へ行ったのだが、周りは廃墟でここ数日降水もないせいか、灼熱の日差しと埃っぽさで参ってしまった。特に山村は入社してから半年で十キロ近く体重が増えたせいもあってか、かなり辛そうだった。線引き屋の仕事として現地調査は外せないのだが真夏の中の調査はかなり過酷だった。
「山村、お前、太すぎるんだよ。夏場に太るってどういうことだよ」
「ストレスですよー。仕事が忙しくてストレス発散でつい食べちゃうんですよ~」
先輩の伊藤が山村とグッタリしながらもじゃれあう。伊藤は山村の教育係りだ。真白にも前島という先輩が教育係りとしてついている。
「……まあちょっと辛かったですね…こんな日の現地調査は生死に関わりそうです」
「生死に関わらなかったけど、現地調査中に実際倒れてる奴いるからなぁ」
とにかくこの暑さでいつもと同じ事をしていてもヒットポイントの削られ方が大きい。なんとなく真白達の所属する都市開発部のフロアもダレ気味ではあった。皆酷暑にやられている。
「……よし、先輩命令だ。水上、今日は暑気払いということで、飲み会セッティングしろ。俺は冷たいビールが飲みたい!」
「え! 俺がですか!?」
「そう、お前がするの。庶務と総務の人も誘って」
ニヤリと笑って前島が言った。庶務と総務は女性が未だに多い部署だ。真白はゲンナリした風に前島を見た。
「……完全に合コンのセッティングじゃないですか…自分でやってくださいよ…」
「お前が幹事やると人数集まるんだよ。頼んだぞ!水上!」
「……分かりました…」
大きく溜息を付いて真白は合コン、ではなく暑気払いしましょう会の会場を探すためにリラクゼーションルームへ向かった。自販機で冷たい牛乳を買い休憩を入れながら自分のブレスレットに付いている端末で場所を探す…庶務経理の人間も呼ぶのなら十五名ぐらいで予約を取れば大丈夫だと思い、それらしい店に直接電話をしようと番号をクリックしようとした。
「水上、飲み会のセッティングか?」
「うわあ!………前島部長…後ろから覗かないでください…」
「んだよ、別にいいだろーが」
ニヤニヤと笑い、真白が驚いているのを面白そうに見ている。前島部長は真白の教育係りの前島と兄弟で、二人とも気の良い人で仕事もできる。真白は二人の事を尊敬してはいるが、時々こうやってからかわれて遊ばれるのは正直頂けない。自分は別にいじられキャラではない。
「んで、メンバーは誰よ?」
「前島部長の弟さんを筆頭に、部のメンバーと、庶務と経理の方々にも声掛けるので十五名前後って所ですね」
「よし、俺もメンバーに入れとけ。あー、あと一応お前の旦那にも声掛けといてやるよ」
「……は?」
真白はつい眉間に皺をよせてしまった。なにか今、聞き捨てならない事をこの上司は言わなかっただろうか?
「は?じゃねーよ。ちゃんと言っておかないと後が怖いだろ?」
「……なんの…お話ですか…?部長…」
真白は先程の灼熱地獄から、急に寒冷地獄へ叩き落とされた気分になった。この上司は、真白と佐伯の関係を知っているということなのだろうか?佐伯と関係を持ってから一カ月程経ったが、会社でイチャイチャすることは絶対にない。というか佐伯はたまに真白のいるブースへ顔を出すが、それは他のブースにも顔を出していくだけで行動は付き合う前と変わらない。周りも二人の関係に気付いている様子はない。ならば佐伯が前島に話したのだろうか…
「ん?なにお前、佐伯から何も聞いてねーのか?」
「…何をでしょうか?」
「ったく、アイツはめんどくせーな、話しとけよ。……俺は佐伯に頼まれたお目付け役だ。いいな、変なことすんなよ…」
「……お目付け役って…俺、別に悪い事なんかしてないですけど…というか、なぜ前島部長が佐伯本部長にそんなこと頼まれてるんですか?」
「佐伯と俺はな、腐れ縁の幼馴染。頼みやすかったんだろ? 俺はお前の直属の上司だしな。お目付け役にはピッタリだったんだろうよ。つか、いいな、変なことすんなよ」
「変なことってなんですか…なにもしませんよ。今日だって別に俺が率先して飲み会したい訳じゃないんですから…」
率先して合コンしたがってんのはアンタの弟ですよ、と言いたかったのを喉元でグッと我慢した。だいたいお目付け役ってなんなんだと、真白はどうにも腑に落ちない。自分はそんなに佐伯に信用されてないのだろうか?佐伯に食生活を指摘されてからは、なるべくまともな食事を心がけているし、その後前島から呼び出され、なんでもかんでも仕事を受けるなと言われ、気の使い方なども指摘された。真白は別に過剰に周りに気を使っていたという自覚はなかったのだが、頼まれたり、お願いされたりした事を断って人間関係が崩れるのがイヤだったのは確かだ。その結果が呼び出しの理由となるならば改善していかなければならないだろうと、真白は少しずつではあるが不必要な気使いを止めていった。お陰で少し心にも時間にも余裕が出来てきた。
こうやって少しは改善してきたと、自分で思っているのに佐伯にはまだまだだと見えるのだろうか?
どうしたらいいのかと、真白は逡巡し始める。そんな真白を眺めていた前島が呆れたように真白に話しかけた。
「あのなー、アイツのこれは、ただの独占欲だ。お前は気にすんな」
「……は?」
「だから、お前は気にすんな、いいな」
「……はい…」
前島は真白の肩をポンと叩いてリラクゼーションルームを後にする。
…気にしなくていいのか?と、頭を捻るが考えても確かに答えは出てきそうにない。それよりも今は飲み会の場所を確保しなければならないだろう。今日は日が悪いことに給料日後の金曜日だ。今から大人数の予約が取れる店を見つけるのは難しいかもしれない。真白は端末を再び立ち上げ店探しを始めた。
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