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真尋、突します
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月曜日の午前中は部内で大会議が一カ月に一度行われる。新人が会議の進行役を任せられるのだがやはり緊張するものだ。上手くいかなければ皆の昼食の時間が削られていくので、文句を言われるの事もしばしばだ。真白も少し前に進行役をしたばかりで、暫くは自分にその役目が回ってこない事に安堵し、会議の内容をしっかりとメモして午前中を終えた。今回の進行役は隣席の同僚、山村だった。昼食の時間に少し食い込んだが文句が出る程ではなかった。それに安心したように山村が真白を昼食に誘う。
「近所に新しいとんこつベースのラーメン屋ができたんだよ、行こうぜ」
「この暑いのに…ラーメンですか? 暑い時の脂っこいのって胸やけしません?」
「暑いからこそ、熱いもんと脂っこいもん食べて元気付けるんだよ」
ニコニコと笑う山村だが、また太った気がする。…元気付くかもしれないけど脂肪も付きますよね。と真白は口が滑りそうになったが、寸でのところでなんとか止めた。山村は暑いから外には出たくないと言っていたが、まだ残暑が厳しいこの時期に、とんこつラーメンの為になら外に出られるようだった。真白は実は少々夏バテ気味だったので、とんこつラーメンは丁重に断り社食へ向かおうとした。その時、留守番の庶務の女性が真白を呼びとめた。
「あ、水上くん」
「井上さん、なにかありましたか?」
「30分前から水上くんのご家族が、下のロビーでお待ちらしいの。緊急だったら呼び出ししようかと思ったのだけど、会議が終わるまで知らせなくて良いっておっしゃったみたいで」
「え? そうなんですか?」
「ロビーのミーティングルームの三番にいらっしゃいますよ」
「すみません、ありがとうございます」
頭を下げて礼を言い、真白は一階のロビーへ向かうためにエレベータを呼びだした。ロビーは広くエレベータホール同様吹き抜けの広々とした空間だ。その正面奥にミーティングルームが何室かある。そこの三番の扉のタッチパネルを真白は操作して訪れたことを知らせ、中へ入った。そこにはテーブルとイスが四つ並んでおり、奥の席に弟の姿が見えた。真尋はとうとう真白の会社まで押し掛けて来てしまったのだった。そして真白はその姿を見て内心動揺してしまった。
何故か真尋はいつもと同じように真白よりも大きな体を小さく見せようと縮こまって上目使いで見るのではなく、苛立ちを隠さず眉間に皺を寄せ、真白を睨みつけてきた。その目に真白は不安になったがそれは隠して冷静に真尋に会社に来た要件を聞いた。
「…なに?真尋?なにかあった?」
「…別に?特になにもないけど。なにかがなきゃ、会いに来ちゃいけないっての?」
「…ここは会社だし、俺はいま就業中だよ。分かってるでしょ?」
「12時過ぎてるから、休憩時間じゃん?」
「休憩時間でも就業中は就業中だから。で、特に要件ないなら俺は食事を取りに行きたいんだけど」
「…俺も昼メシ食ってない」
知らないよ、そんなこと。そう言って本当は突き放したかったが、そこまでしなくてもいいかと仕方なく真白は真尋を連れて、社食へ向かった。社食は表向きにも開放されていて、殆どレストランのようだった。一階にあり、中庭に面しているので外には木陰に囲まれたテラスがあるが、この時期にテラスに出て食事をする者はいなかった。木陰でも暑いものは暑い。
真尋は一緒に食堂へ向かう間も眉間に深い皺を寄せ一言も離さない。さすがに真白も心配になる。こんな風に真白相手にピリピリした、そしてどことなく敵意を向けているような態度は見たことがなかった。確かに真白はベタベタとくっついてしつこい真尋を、ここ一カ月半冷たくあしらってきた自覚はあるがここまで真尋の態度が変わるとは思っていなかった。
「真尋、なに食べる?」
妙な沈黙に違和感を感じながら、真尋に問うと真尋は真白と同じもので良いという。真白は小さくわからないぐらいの溜息を付いて、今日の日替わりを二つタッチパネルで注文した。席にはタッチパネルが備えてあり、席で待っていれば食事は給仕ロボットが運んでくる。調理はだいたいを人間がしているが、今はほとんどのレストランで給仕ロボットが活躍している。
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