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自業自得
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ふんっと鼻を鳴らし、前島は真尋にまた視線をやる。佐伯もじっと真尋を見つめた。その二人の視線に、真尋は急に頭が冷えたようで、大きな体を小さくして二人の視線から逃げるように目を逸らした。そんな前島は眉間に皺を寄せ、少し強い口調で問う。
「で、アンタ誰よ?」
「え、あ、あの…俺は…」
「すみません、弟の真尋です」
「へ?」
「ああ…なるほど…」
佐伯が納得したように頷き、にっこりと真尋を見ながら微笑んだ。その微笑みに真白はゾッとし身震いしてしまった。笑ってはいるが佐伯は酷く腹を立てている。真尋は佐伯を見ようともしないから、その表情を読み取ることは出来ないだろう。佐伯は真尋に向いたままチラリと視線を真白にやった。
「こんな所で兄弟喧嘩はいただけないね。二人で別室で話をしたら? なんなら俺が同席しても構わないよ。わざわざ会社まで来るなら…よほどの用なんでしょう?真尋くん?」
真白に話しかけていた佐伯だが、急に真尋に話を振る。そうすると真尋はビクリと体を跳ねさせ借りてきた猫のごとく更に縮こまり小さくなっていく。
「…え…あの…いや別に…」
「別に? 何かな? まさか用もないのに会社まで押し掛けてきたりしないよね? ああ、他人には話しづらい内容なのかな? すまなかったね、気がきかなくて」
「あの、いえその…」
真白はさすがに、真尋の情けない姿を見て助け船を出そうかと考えたが、今の佐伯は真白でも恐ろしい。なにを言っても吝かになりそうだ。だいたい佐伯の言うとおり、大した用もないのに考えなしで、会社に押し掛けてきて、真白に喧嘩を売ったのは真尋だ。自業自得の真尋に真白はもう助け船を出すのを止め、成り行きを見守ることにした。
「真尋くんは、大学生かな? ここはね、大学じゃないんだ。そして、君の兄さんは、ここの従業員だ。学生ではないし、それなりに責任を負う立場でもあるんだよ。職場で騒ぎを起こせば、君の兄が責任を取らなければならなくなる。それ分かってる?」
「……」
佐伯に詰められ、さすがの真尋も事の重大さが分かってきたのか顔が青ざめていった。そんな所まで思いが至らなかったのだろう。真尋は真白に詰めて騒ぎを起こしても、そのまま会社を出ればいい。しかし真白はここで働いている従業員。騒ぎを起こした後も、この職場に残り仕事を続けなければならない。
「あー、まあ暴力沙汰ってワケじゃねぇからなぁ。水上弟、もう帰れ。そんでここにはもうくんな、な?」
どうやら前島が見かねて真尋に助け船を出した。下を向いたままの真尋は小さく「はい…」と頷き、先程自分で倒した椅子を元に戻し佐伯達に頭を下げて、逃げるように食堂を出ていった。後に残された真白は深く溜息を付く。まだ興奮が収まらないのか、体が震えているのが自分でも分かる。騒ぎが収まったのを周りが確認したように、普段の食堂の雰囲気が戻ってきた。真尋が引っ繰り返し、散らばってしまったチンジャオロースはお掃除ロボットがカタカタと音を立てて綺麗に掃除し始めていった。
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