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異常
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佐伯は暇を見ては真白にメールを入れるようにしていた。仕事が忙しい中、ほとんど電話で話す事が出来ない。佐伯は深刻な真白不足に陥っていた。朝の出勤中であろう時間にメールを入れると、すぐに返事が来るのだが、今日はその返信がない。毎日同じように連絡が出来る訳ではない。佐伯は大きく溜息をついて、営業の連中と合流する為に部屋を出た。
事業のどの部分を受け持つか、他社が入り乱れての争奪戦だった。大きな責任ある仕事はそれなりに利益は大きがリスクも大きい。それを出来る力があろうが無かろうが、営業連中は勝手な事を言ってくる場合もある。そういう綻びを佐伯は見抜いて、他社を落とす。さすがに、そろそろ嫌気が差してきた。正直ババを引いた。昔の北海道だったら、もう少し楽しめたのかもしれなかったが、現在の北海道はどこにも楽しい場所はない。ただ寒い。それも真白に早く会って抱きしめたいという気持ちに拍車がかかっている。蹴落とす物は蹴落として、掴む物をサッサと掴んで早く帰る。佐伯はさらに手綱を締めた。
昼に、もう一度真白にメールを入れた。今度は返信がすぐに着た。
『朝のメールを返せなくて、ごめんなさい。今日は少し寝坊しました。でも出勤時間には間に合いました。』
真白が寝坊?珍しいこともあるもんだと佐伯は思った。確かに珍しいが人間であれば誰しも一度や二度は普通にあることだろう。でも佐伯はなにか引っかかった。普段から真白のメールは簡素な内容だった。ただいつも必ず佐伯に体調の事を聞いてくる。今日のメールにはそれがない。佐伯は廊下を真っ直ぐ進み、ちょっとした小さなテラスがある場所まで移動した。今の時間なら丁度昼時で、真白は社食へ移動中かもしれなかった。端末で真白の番号を呼びだす。なかなか出ない。7コール目でやっと出た。
「真白? 移動中だった?」
『……佐伯さん、電話…大丈夫なんですか?』
「あんまり時間はないけどね、何かなかった? いい子にしてる?」
『…いい子にしてます。大丈夫です』
真白の声色に何かが引っかかった。周りの人間なら気付かないであろう何かが、佐伯には引っかかる。佐伯は真白にもう一度問いただす。
「…真白、なにがあったの? 隠し事はしないって約束だよね?」
『…なにも……ないです……食事に行きたいので、もう、切ります…』
「? 真白?」
『…ごめんなさい…ごめんなさい、佐伯さん…』
そう言うと真白は電話を切った。真白から電話を切った。もう異常だ。こんなことは一度もなかった。佐伯は急いで、前島に電話を入れる。
『おー、なんだよ。なにかあったか?』
「真白に何かあったか?」
『あ? 特に変わった事は…ああ、なんか体調悪いって言ってたな。ワイン飲んで二日酔いだと』
「ワイン? ちなみに何を飲んだって言ってた?」
『赤ワインだってさ。銘柄は言ってなかったな…ってなんかあったか?』
「赤ワイン?」
真白は赤ワインを避けていた。初めて誘った食事の時に、佐伯はそれを知らずに真白に赤ワインを勧めた。真白は次の日偏頭痛で薬を飲んでやり過ごしていた。それを知ってから佐伯は真白に赤ワインを薦めないし、真白も自ら飲む事はなかった。
「…何があったか知りたくて電話したんだけどね…」
『? なんだよ? 赤ワインがなんかあんのか?』
佐伯は曖昧に返事を返し、電話を切った。早く帰ってちゃんと真白を抱きしめ問いたださなければ。あの様子では電話でいくら言っても口を割りそうにもない。今頃真白は佐伯に隠し事をした事で自己嫌悪に陥っているはずだ。それでも言いたくない何かは一体何なのだろうか。早く真白に会わなければ。佐伯は苦々しい思いで鉛色の寒空を見上げた。
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